ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

平面四配位を有する酸化物における圧力誘起相転移図6B1?B2構造相転移圧(Ps)とイオンサイズ比(R A/R X)の関係.(Relationship between P s and R A/R X.)(a)二元系における関係.16),17)(b)インターグロース構造における関係.17)枠付きは引用14),17)で報告した物質.RA,R Xは,それぞれカチオンとアニオンのイオン半径を表している.果,A 2MO 3で予想される転移圧力よりもおよそ2倍の約65 GPaで転移を起こすことがわかった(図6b).つまり,面間方向の圧縮率が悪くなったことで岩塩型ブロックの圧縮が阻害され,転移圧が上昇につながったと考えられる.最近になってアピカル位が100%占有されたSr 3Ir 2O 7(Ruddlesdon-Popper型ペロブスカイト)において,同様の構造相転移が約54 GPaで観測された.18)この転移圧力は(AO)(AMO 2)nで予想される圧力に対しておよそ3倍となっている(図6b).つまり,アピカル位置の酸素占有率の増加によって転移圧力が図6の予想値からさらにずれることを意味している.4.終わりに本稿では,平面四配位鉄酸化物SrFeO 2やSr 3Fe 2O 5が,面間のFe?Fe相互作用の増強効果によって,新しいメカニズムによるスピン転移を起こすことを紹介した.また,19二元系では約80年前)から知られていた岩塩型構造から塩化セシウム型構造への圧力誘起の構造相転移が,SrFeO 2,Sr 3Fe 2O 5,Sr 2PdO 3,Ca 2CuO 3などの岩塩型ブロックを含むインターグロース構造(AO)(AMO 2)nにおいても普遍的に起こることを見出した.さらに,単純な二元系で知られていた転移圧とイオン半径比の関係が,平面四配位構造をもつインターグロース構造における構造相転移圧にも適用できた.Sr 3Ir 2O 7ではB1?B2構造相転移点の近傍にて絶縁体-金属転移が起こることも報告されている.20)Ruddlesden-Popper(RP)型ペロブスカイト構造をもつ物質は,銅酸化物超伝導体(La,Sr)2CuO21)4や巨大磁気抵抗マンガン酸化物(La,Sr)3Mn 2O22)7を初めとするさまざまな面白い物性が知られている.したがって,B1?B2構造相転移を利用した物性制御や新奇機能日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)の発現が期待できる.また,アピカル位置に酸素を占有させることによって転移圧力を制御できることも示した.これは酸化物イオンの圧縮率を観測していることにほかならない.もし,酸化物イオンのかわりにほかのアニオンを入れることができれば転移圧力がアニオンの圧縮率の指標とみなすことができることに,新学術領域研究「複合アニオン」の研究の過程で気がついた.今後機会があれば,さまざまな複合アニオン化合物において同構造相転移の研究を行い,圧縮率と転移圧の関係について検討していきたい.謝辞本研究は,多数の共同研究者のもと行われたものである.特に高圧X線回折測定では東京大学の八木健彦5氏,岡田卓氏,KEKの亀卦川卓美氏,高圧7Feメスバウアー分光測定は日本大学の川上隆輝氏の協力のもと行われた.岡山大学の高野幹夫氏,京都大学の小林洋治氏,Cedric Tassel氏には,研究の各段階で貴重なアドバイスをいただいた.ここに深く感謝を申し上げる.本研究はJSPS科研費基盤研究(A)(JP22245009)と新学術領域研究「複合アニオン化合物の創製と機能」(16H06439,16H06440)の助成を受けた.文献1)M. Murakami, K. Hirose, K. Kawamura, N. Sata and Y. Ohishi:Science 304, 855(2004).2)K. Ohgushi, J. Yamaura, H. Ohsumi, K. Sugimoto, S. Takeshita, A.Tokuda, H. Takagi, M. Takata and T. Arima: Phys. Rev. Lett. 110,217212(2013).3)B. Wang and K. Ohgushi: Sci. Rep. 3, 3381(2013).4)A. P. Drozdov, M. I. Eremets, I. A. Troyan and S. I. Shylin: Nature265