ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

ページ
20/56

このページは 日本結晶学会誌Vol58No6 の電子ブックに掲載されている20ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol58No6

山本隆文,陰山洋図5(a)岩塩型構造,(b)塩化セシウム型構造,Sr 3Fe 2O 5の(c)常圧相・(d)高圧相,A 2MO 3の(e)常圧相・(f)高圧相.(e),(f)の破線はアピカル酸素サイトを示している.(NaCl(B1)structure, CsCl(B2)structure, ambient and highpressure structures of Sr 3Fe 2O 5 and A 2MO 3.)ると,観測された構造相転移は,岩塩型ブロック(図5c)が塩化セシウム型ブロック(図5d)へと変化したとみなすことができる.このような岩塩型(B1構造,図5a)から塩化セシウム型(B2構造,図5b)への構造相転移(B1?B2構造相転移)は昔からよく知られていた.高圧下では高密度・高配位数な構造を好むため,六配位の岩塩型構造に比べ,八配位の塩化セシウム型構造が好まれる.Sr 3Fe 2O 5においてもSrの配位数が構造相転移によって七配位から八配位に増加していることが図5c,dから見てとれる.NaClやMgOなど多くの単純な二元系化合物が岩塩型構造をとることから,地球科学の分野では二元系のB1?B2構造相転移が古くから研究されており,実際に酸化物や,塩化物,カルコゲン化合物など数多くの物質で一般的に起こることが知られている.しかし,インターグロース構造においてもB1?B2構造相転移が起こることが観測されたのはSr 3Fe 2O 5が初めてのことである.3.3インターグロース構造におけるB1?B2相転移二元系でのB1?B2構造相転移は多くの物質において観測されるが,その転移圧力はカチオン・アニオンのイオンサイズ比によって普遍的にスケールされることが知られていた(図6a).16)そこでわれわれは,インターグロース構造におけるB1?B2構造相転移の振舞いをA 2MO 3(A=Ca,Sr;M=Cu,Pd)の高圧X線回折測定により検討した.17)ここでA 2MO 3は平面四配位(AMO 2)1ブロックと岩塩型SrOブロックのインターグロース構造である(図5e).実験の結果,調べたすべての物質においてB1?B2構造相転移が観測された.転移圧力はSr 2PdO 3が29 GPa,Sr 2CuO 3が30 GPa,Sr 2CuO 3が41 GPaであった.これらの転移圧力をカチオン・アニオンのイオン半径比(R A/R X)に対してプロットしたところ,二元系で知られていた相転移圧の直線関係とほぼ完全に一致した(図6b).すなわち,平面四配位(AMO 2)nブロックがB1?B2構造相転移にほとんど影響を与えていないということを意味する.このことは平面四配位(AMO 2)nブロックの面間のアピカル酸素サイト(図5e破線参照)が完全に欠損しているため,a軸に平行な方向(平面四配位ブロックの面間方向)に圧縮されやすくなっており,圧力の効果が岩塩型ブロックにのみ現れるということを意味している.それでは,平面四配位(AMO 2)nブロックのアピカル位置の一部が酸素によって占められている場合には,転移圧力に影響がでるのであろうか.アピカル位置に酸素が占有すれば,平面四配位ブロックの面間方向の圧縮率が悪くなることが予想される.この影響を検証するために,アピカル位置に酸素がランダムに40%占有したLaSrNiO 3,4の相転移の挙動を調べた.17)その結264日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)