ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

平面四配位を有する酸化物における圧力誘起相転移気分裂幅がP c以上で半分になることから明確に見てとれる.このスピン転移は四配位の遷移金属において初めて観測されただけでなく,反強磁性絶縁体から強磁性金属への転移を同時に起こすことから大きな注目を集めた.次いで,スピン梯子構造Sr 3Fe 2O 5(図1c)についても同様の実験を行ったところ,SrFeO 2とほぼ同じ34 GPaでS=2からS=1のスピン転移を起こすことが明らかになった(図2b).14)このことはスピン転移圧力が磁気格子の幾何学や次元性によらないことを意味している.両物質ではPcにおける面間距離がほぼ等しいことから,向かい合うFeO 4ユニット間に働くFe?Fe直接相互作用が重要であることが示唆された.またこの事実は,平面四配位鉄酸化物のスピン転移が通常の物質のそれとは異なるメカニズムによるものであることを意味している.スピン転移は,一般には図3aに示すように単一の八面体ユニットでの結晶場分裂の大きさと電子間反発の競合によって説明される.例えば,圧力によって結晶場分裂の大きさが電子間反発に打ち勝つと電子配置が高スピン状態から低スピン状態へと変化する.対照的にSrFeO 2やSr 3Fe 2O 5では,図3bに示すように向かい合う2つのFeO 4平面四配位ユニットが“スピン転移の最小単位”となる.15)圧力の印加によって面間距離が減少すると,d xzおよびd yz軌道の混成(Fe?Fe直接相互作用)が増強され,結合性軌道がより安定化し,反結合性軌道がより不安定する.また,面内のFe?O距離が外部圧力により縮まることにより,d x2-y2軌道は不安定化する.これらの軌道エネルギーがP cにてクロスオーバーを起こし,(d z2)(d 2 xz,d yz)(d 2 xy)(d 1 x2-y2)1の高スピン状態から,(d z2)(d 2 xz,d yz)(d 3 xy)(d 1 x2-y2)0の中間スピン状態へと転移する.3.2 Sr 3Fe 2O 5の圧力誘起構造相転移SrFeO 2において観測されたスピン転移に伴う体積収縮をSr 3Fe 2O 5でも確認するために高圧X線回折測定を行ったところ,予期せぬことにスピン転移圧力よりもやや低い圧力の30 GPaにて回折パターンが劇的に変化した(図4a).14)指数付けを行うと構造が転移前の体心格子(空間群:Immm)から,A底心格子に変化していることが明らかとなった.脱圧すると常圧の構造に戻る可逆的な相転移であること,また,構造相転移後の34 GPaでもスピン転移が観測されたことから,向かい合う平面四配位ユニットは保たれていることもわかった.これらの事実から推定した構造を図5dに示す(空間群:Ammm).平面四配位のブロックに着目すると,体心格子からA底心格子への変化によって,高圧相では平面四配位のブロックが同一平面上に位置している.われわれは,高圧相のX線回折パターンのリートベルト構造解析を行うことにより,この構造が正しいことを確かめた.先で述べたように常圧でのSr 3Fe 2O 5の構造は平面四配位ブロックと岩塩型ブロックのインターグロース構造とみることができる(図5c).この観点から構造を観察す図3スピン転移の模式図.(Schematic view of spin statetransitions.)(a)通常のスピン転移.(b)平面四配位の鉄におけるスピン転移.15)簡単のため,d xz/d yz軌道(ダウンスピン)とd x2-y2軌道(アップスピン)のみを示している.15)図4Sr 3Fe 2O 5の粉末X線回折データと格子定数.14)(PowderX-ray diffraction patterns and lattice parameters ofSr 3Fe 2O 5 under high pressure.)(a)30 GPa前後でパターンが大きく変化しており,構造相転移が起こったことがわかる.*はReガスケットのピークに対応する.(b)~(e)30 GPaが構造相転移,34 GPaがスピン転移に対応する.日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)263