ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

山本隆文,陰山洋Cu 2+やNi+がd 9のヤーンテラーイオンであることから,平面四配位を好むことは自然である.一方,d 6のFe 2+には大きなヤーンテラー効果は期待できないため,SrFeO 2にてFeO 4平面四配位が実現したことは当初驚きをもって迎えられた.しかし,その後の計算により3d z2軌道の混成効果などにより原子内電子反発が著しく減少することがFeO 4平面四配位を安定化に寄与することが示された.8),9)すなわち6個目のダウンスピンは3d z2軌道を占有する.鉄は高スピン状態(S=2)であり,電子配置は(d z2)(d 2 xz,d yz)(d 2 xy)(d 1 x2-y2)1と表される.また,向かい合うFeO 4平面四配位ユニットの間のd xz/d yz軌道を介したFe?Fe直接相互作用も同配位の安定化に大きくかかわっていることも明らかになった.実験,計算の両面からFe?Fe直接交換相互作用は,面内のFe?O?Fe超交換相互作用の1/3程度もあることが示されている.8)-10)したがって磁気相互作用を考えると,d x2-y2軌道のみが半占有するため二次元性が強いSrCuO 2やLaNiO 2と状況が大きく異なっており,SrFeO 2は三次元的な性格が強いといえる.これを反映してSrFeO 2の反強磁性転移温度(TN)は473 Kと非常に高い.その後,層状ペロブスカイト構造のSr 2FeO 4とSr 3Fe 2O 7についてもCaH 2による低温還元反応を行うことにより,FeO 4平面四配位ユニットが一次元鎖を形成するSr 2FeO 3と同ユニットが梯子格子を形成するSr 3Fe 2O 5がそれぞれ得られた(図1b,c).11),12)Sr 2FeO 3,Sr 3Fe 2O 5,SrFeO 2はSrn+1FenO2n+1という一般組成で表記することができる(それぞれn=1,2,∞に対応).これを(SrO)(SrFeO 2)nと書き直せばわかるように,岩塩型SrOブロックと平面四配位(SrFeO 2)nブロックが交替積層したインターグロース構造とみなせる.したがって,nを減少させることによって次元性が低下することが期待される.実際にT Nは,SrFeO 2(n=∞)の473 Kから,Sr 3Fe 2O 5(n=2)の296 K,Sr 2FeO 3(n=1)の197 Kと減少する.3.圧力誘起相転移3.1平面四配位鉄酸化物の圧力誘起スピン転移前章では,SrFeO 2では面間d xz/d yz軌道によるFe?Fe直接相互作用が平面四配位の安定化にかかわることに触れた.従来の鉄酸化物では四面体,ピラミッド,八面体などの立体的な局所構造しかとれなかったため,このFe?Fe直接相互作用は平面四配位が実現できたからこそ生まれた相互作用といえよう.そこでわれわれは,圧力の印加によりFe?Fe直接相互作用をさらに増強させることができれば,従来の鉄酸化物にはない新しい現象が発現するのではないかと考え,ダイヤモンドアンビルセルを用いたSrFeO 2のX線回折測定,メスバウアー分光測定,電気抵抗測定を行った.その結果,SrFeO 2がPc=33 GPaで,わずかな体積収縮を伴う高スピン状態(S=2)から中間スピン状態(S=1)へのスピン転移を観測した.13)このスピン転移は,図2aの57 Feメスバウアースペクトルの磁図2平面四配位鉄における圧力誘起スピン転移.13),14)(Spinstatetransitioninthesquareplanarironoxidesunderhighpressure.)(a)SrFeO 2と(b)Sr 3Fe 2O 5の57 Feメスバウアースペクトル.ピークの分裂幅が内部磁場の大きさ対応.両スペクトルとも30 GPa前後で分裂幅が約半分になる.これはS=2からS=1への中間スピン転移が起こったことを示す.磁場下で2番目と5番目のピークが消失したことは高圧相が強磁性であることを示している.262日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)