ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

ヘルマン・モーガン記号の解読5.548 A,β=91.0°である.ヒスイ輝石の並進操作をソーローライトに適用できないのでヒスイ輝石の空間群とソーローライトの空間群は異なる.この相違を無視すれば,ヒスイ輝石とソーローライトは同じ空間群タイプに属する.2.1シェーンフリース記号とヘルマン・モーガン記号の比較ここでは読者が「群」という概念を理解していると考え,その定義を省略する.群の公理の1つは「内包算法」であり,群の2つの対称操作を連続施行すると同じ群のほかの対称操作が得られるという意味をする.したがって,その群を記述するために全操作を明確に並べる必要がなく,連続施行ですべての操作が得られる代表のみ表示すればよい.その代表は「生成元」(generators)という.言うまでもなく生成元の選択はユニークではないが慣用な決まりが存在する.群に1個のみの生成元がある場合はその群は「巡回群」(cyclic group)と呼ばれる.シェーンフリース記号は方位に依存しない記号である.流体中移動と回転する分子の対称性を示すのに適切であるために,化学では点群記号として頻繁に用いられている.固体物質の場合は,対称操作ばかりか,対称要素の方位に関する情報も重要であるが,後者はシェーンフリース記号に含まれていないため,結晶の対称性を表現するためには,ヘルマン・モーガン記号が最適である.空間群のシェーンフリース記号は点群の記号と順番番号でできており,実用性のあるものではない.例えば,空間群タイプの10番から15番(ITAの順番)までのシェーンフリース記号はC 1 2h~C 6 2hであり,それぞれC 2h(ヘルマン・モーガン記号では2/m)という点群を共通としているが,それらの違いがはっきりしない.ヘルマン・モーガン記号はP2/m,P2 1/m,C2/m,P2/c,P2 1/c,C2/cとなり,それぞれの特徴と違いははっきりしている.そればかりか,記号から空間群の一般位置,特殊位置を導くことができる.2.2 3種類のヘルマン・モーガン記号ITAでは3種類のヘルマン・モーガン記号が利用されている:短縮記号,完全記号,拡張記号.短縮記号と完全記号は「プライオリティー決まり」に従って一部の対称要素しか示されていない.その「プライオリティー決まり」は,等しい位数の回転軸と螺旋軸が共存する場合は前者が記号に表示されると定めている.また,複数の鏡面が共存する場合は,m>e>(a,b,c)>nという順番で表示される.d映進面は最も優先性が低いもののため上記のリストに明示的に表示されないが,空間群で存在しても他の面と共存しないため問題は生じない.逆に,g映進面は必ず別の映進面と共存するため使用されない.*5著者によって,空間群タイプ,空間群型,空間群種という3つの名付け方が利用されている.日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)この決まりで区別できない数少ない空間群があるが,それらは例外として扱われている.例えば,I222とI2 12 12 1の両空間群には3本の2回回転軸と3本の2回螺旋軸が共存しているが,前者の場合のみ回転軸が共通の1点をもっている.これらの超群であるI23およびI2 13も同様である.具体的に,ヘルマン・モーガン記号は以下のように記述される.1.短縮記号(short symbols):格子の対称方向に最低限必要な対称要素の記号であるが,生成元とは限らない.例えば,222とmm2の結晶類(crystalclass)の空間群では2つの記号は生成元を表し,3つ目はそれらの操作の組み合わせで生じる.2.完全記号(full symbols):格子の対称方向に回転(螺旋,回反)軸と鏡映(映進)面が共存する場合は両方の記号が表示されている.3.拡張記号(extended symbols):短縮記号の形で,格子の対称方向にあるすべての対称操作が表示されている.2行または4行で表示されるもの.直方(斜方)晶系までは,拡張記号は複合格子に限られている.例えば61番の空間群の省略記号はPbcaであり,完全記号はP2 1/b2 1/c2 1/aであるが,拡張記号は省略記号と一致する.一方,73番の空間群の省略記号はIbca,完Ibca全記号はI2 1/b2 1/c2 1/aであり,拡張記号cabとなる.e映進面に関しては注意する必要がある.この記号は2つの映進を意味するから,操作ではなく要素を示す.ITAの5版から一般にe記号が利用されるようになったのでヘルマン・モーガン記号の意味をより明確に理解する必要がある.例えば,Cmceの空間群の完全記号はC2/m2/c2 1/eである.Cベクトルの存在によって,0yzのm鏡面のほかに1/4yzのb映進面が存在し,x1/4zのc映進面のほかにx0zのn映進面が存在する.その反面,[001]方向に垂直なe映進面(同時にaとb映進をもつ鏡面)がxy1/4とxy3/4の各c/2おきに存在する.ITAの第5版では拡張記号はCmcebneとなっているが,[100]と[010]の方向に対称操作が表示されているのに対し,[001]方向に対称要素が表示されているため矛盾が生じている.ITAの第6版9)ではCmcabnbに改善されているが,省略記号と完全記号に対称要素が表示されているのに対して,拡張記号には対称操作が表示されるという不均一性に注意すべきである.2.3ブラべー格子,単位胞,慣用単位胞ブラべー格子は普通「単位格子」と「複合格子」に分類されるが厳密にいうとこれは言葉の乱用である.実は格子は無限のもののため「単純」でも「複合」でもない.10)その格子の代表として利用される有限の単位胞は「単純単位胞」と「複合単位胞」で分類されるのが正しいが,あいにく現在は上記の表現が一般に使われるようになった.結晶構造の周期に矛盾のない多面体はどれでも単位胞257