ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

ヘルマン・モーガン記号の解読図8「軸」という幾何的要素を共有する無限個の対称操作は「要素セット」を形成する.その中,最短w intrをもっている対称操作を「定義操作」という.(左)定義操作が回転操作のため対称要素は回転軸.(右)定義操作が螺旋操作のため対称要素は螺旋軸.例えば,結晶のc軸(幾何的要素)の周りに2回回転操作を行うとしよう(図8).最短w intrがゼロ(p=q=r=0)の場合,定義操作は2回回転操作なので,対称要素は2回回転軸と呼び,(W,w)で固定される.w intrに1周期の並進,2周期の並進,3周期の並進などのような並進を足すと無限個の対称操作が出現するが,すべてその軸(幾何的要素)を共有する.これらの操作のヘルマン・モーガン記号は2,22,24,2 6…などのような馴染みのない記号だが,少なくてもOD論では2 2はよく使われている.8)また,最短w intrがc/2(p=q=0,r=1/2)の場合は定義操作が螺旋操作となるので対称要素は2回螺旋軸と呼ぶ.それにn周期並進を足した操作のヘルマン・モーガン記号は21,23,25,2 7…などである.なお,この場合はゼロw intrをもつ対称操作がないため(W,w)が固定する部分空間が存在せず幾何的要素を同定するために(W,w loc)=(W,w-w intr)を利用する.対称要素の概念を理解した上で空間の次元による対称要素の分類を紹介する.なお,幾何的要素は点の場合は,方位が定義されないためw intrはゼロとなる.・一次元空間では鏡映点しか存在しない.・二次元空間では回転点,鏡映線と映進線が存在する.・三次元空間では反転中心(対称中心),回転軸,螺旋軸,鏡映面と映進面が存在する.幾何的要素と対称要素の区別をもう少し詳しく説明する必要がある.1.2.1点「点」という幾何的要素は,どの次元の空間にも存在する.しかし,要素セットは次元に依存するため対称要素が異なる.1.一次元空間では,鏡映操作と反転操作の区別がな日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)いためどちらでも選択できる.International Tablesfor CrystallographyのVolume A(下ITA)9)では前者が選ばれたため,対称要素は「鏡映点」(reflectionpointあるいはmirror point)と呼ぶ.2.二次元空間では,要素セットはその点を不変にする回転操作であるため,対称要素は「回転点」(rotation point)という.n回回転操作の場合は要素セットはn個の元で形成される.3.三次元空間では,要素セットは回反操作(rotoinversions)であり,n _という記号で記述される.nは偶数か奇数かにより要素セットはn個か2n個の元で形成される.その理由は,nが偶数の場合はn回適用すると恒等操作と同じ結果になるが,nは奇数の場合は恒等操作を得るまで2n回適用しなければならないからである.三次元空間の場合は,中心(centre)と点(point)の区別が重要である.回反操作n _は2種類に分けなければならない.1.n _のnが奇数の場合,回反操作にはnという回転操_作と1という反転操作が共存する.操作の位数は2nであり,n nはただの反転操作である.すなわち,反転操作は独立に存在するため,回反軸という対称要素に「中心」(反転中心あるいは対称中心)が乗っている.2.n _のnが偶数の場合は操作の位数はnであり,反転操作は独立に存在しないため,回反軸という対称要素に対称中心が乗っていない.a.n=2の場合は回反操作が不変にするのは回反軸に垂直な面であるため実は幾何的要素は「面」で,対称要素は「鏡映面」あるいは「映進面」である.b.n>2の場合は回反操作が不変にするのはただの点である.nが奇数の場合と区別するためにこれを「点」(反転点あるいは対称点)と呼ぶ.なお,反転中心は「点対称」と呼ばれている場合があるが,「中心」であるにもかかわらず「点」という呼称は混乱を招きかねないため「点対称」という呼び方を避けるべきだろう._演習問題3 6という対称操作は反転操作を独立に含ま_ないことを証明せよ.6は2つの共存する対称操作の組み合わせとして記述することができるがその記述は結晶構造の対称性と矛盾していることを説明せよ.ここで歴史的背景に注目すると「反転点」は英語のinversion pointの直訳に過ぎず,日本結晶学の巨人であ演習問題の解答はJ-Stageに付録として掲載してあります.255