ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

ネスポロマッシモという.なお,多くの教科書は?面体と庇面体の区別を導入しているにもかかわらずほかの形の物性対称性を考慮しないため48種類の形を紹介している.これは結晶形とアフィン形を混ぜてしまうことになり,明らかに矛盾している.結晶形を導入する段階で?面体と庇面体の区別をしてはいけないことは昔から強調されている3),4)があいにくいまだにこの矛盾が残っている.1.2対称要素次に,要素の概念を紹介する.対称操作が不変(invariant)にする部分空間が存在する場合はその部分空間を幾何的要素という.恒等操作は全空間を不変にするもののため幾何的要素をもたない.逆に並進操作は1点も不変にしないため幾何的要素をもたない.幾何的要素をもつ対称操作は対称要素ももつがこれらの概念を区別する必要がある.5)-7)1.幾何的要素(geometric element):対称操作が不変にする点,線,または面である.2.幾何的要素を不変にする対称操作の集合は「要素セット」(element set)と呼ぶ.幾何的要素と要素セットを対称要素(symmetry element)を定義する(図6).n次元空間で0次元からn-1次元の幾何的要素が存在する.*4・一次元空間では「点」(0次元)という幾何的要素しか存在しない.・二次元空間では「点」(0次元)および「線」(一次元)という幾何的要素が存在する.・三次元空間では「点」(0次元),「線」(一次元)および「面」(二次元)という幾何的要素が存在する.式(1)と同様にn次元空間の対称操作は(W,w)で表示される.ベクトル部分wはさらに2つの部分(w loc,w intr)で生成されている.w loc(location,位置)は要素の位置を示すので要素が原点を通る場合w locはゼロとなる.w intr(intrinsic,本質)は要素に平行な操作の並進部分を示すので,操作が並進部分を含まない場合はw intrはゼロになる.一般に,w=w loc+w intrとなる(図7).一次元以上の幾何的要素は無限個の操作に共有されており,これらの操作の線型部分が幾何的要素のタイプを決定づける.幾何的要素を共有する対称操作は,Wの線型部分とw intr部分をもち,そしてw loc部分は幾何的要素の位置を反映するので対称操作に影響を与えないことを考慮すると,結局幾何的要素を共有する操作はw intr部分で区別する.三次元空間ではその部分は(p/q/r)で示す.最短w intrの長さがゼロの場合はp=q=r=0であり,(W,w)=(W,w loc)となるので点群と同様な操作を示す(点群操作の場合はw locが存在しないのに対して,空*4ここでは三次元空間に留まり,超次元空間には言及しない.幾何的要素図6幾何的要素と対称要素の定義.(ア)対称操作が不変にする部分空間は幾何的要素である.この例では一次元部分空間(線).(イ)幾何的要素を不変にする対称操作の集合は要素セットである.この例では正三角形の3つの回転操作(3 1,3 2=3 ?1,3 3=1)が要素セットを形成する.(ウ).幾何的要素と要素セットは対称要素を定義する.この例では(ア)の軸と(イ)のセットが3回回転軸を定義する.図7対称操作の行列表現の分析.原点に対する等価な原子の位置はr1とr 2というベクトルで表示されている.これらの原子を関連付ける操作の行列表現は(W,w intr+w loc)と分解できる.Wは線型部分で,並進の情報がないのでこの行列をr 1の座標に適用するとr 2'ベクトルを得る.その結果にw intr(この例では螺旋の並進部分)を適用するとr 2"ベクトルを得る.r 2とr 2"の相違は対称要素の位置.r 2"からr2へ移動するのにw locの並進部分が必要.間群操作の場合はゼロであっても存在する).幾何的要素を共有する操作には螺旋操作や映進操作もあり,そのw intrのp,q,rは整数で,1個以上ゼロでないものがある.一方,最短w intrがゼロでない場合はp,q,rの1つ以上は0と1の間の有理数で,特定の幾何的要素を共有する他の操作のw intrはそれに整数を足したものである.なお,最短w intrをもつ操作を対称要素の「定義操作」(definingoperation)と呼ぶ.5)254日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)