ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

ページ
33/58

このページは 日本結晶学会誌Vol58No3 の電子ブックに掲載されている33ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol58No3

日本結晶学会誌 第58巻 第3号(2016) 143大過冷却融液から結晶化した準安定相六方晶鉄酸化物磁気転移温度TN はSc 置換量の増大とともに上昇し,x= 0.7 で175 K となる.これは六方晶RMnO3系,RFeO3 系の中で最高値である.ab 面内のスピンがc 軸方向に少し傾いていることを考えると,Fe系の高い転移温度には,Mn系と比べて短いa 軸長だけでなくc 軸長の低い減少率にも起因していると推察できる.a 軸長,c 軸長双方の寄与を取り込んだパラメータとしてc/aを与え,TN をプロットした(図7).38)Mn系,Fe 系で直線状に並んでいることから,c/aが良いパラメータであるといえる.現状でTNは175 K が最高値であるが,さらに上げようとすると,c/aが大きくなる系,そしてビックスバイト構造をとりにくい組成を選択すると良いと思われる.4.今後の展開先に準安定相を安定化させる条件として,過冷却液体の温度を準安定相の融点以下に下げることを挙げた.実際に結晶化した準安定相を室温で安定に得るためには,結晶成長速度,核生成頻度などのパラメータでも安定相より優位に立つ必要がある.1),17)したがって,それらのバランスによっては,最初に準安定相が結晶化しても,その後結晶化した安定相の成長速度が上回ってしまい,結局最終的に得られるのは安定相となる場合がある.そのときの冷却曲線には,2段階の結晶化に伴う2回の復熱現象(ダブルリカレッセンス)が見られる.39)この凝固過程において,準安定相は2 つのリカレッセンスの間の時間(例えば数~数百msec程度)しか存在し得ない.それでもローラークエンチなどの超急冷法と組み合わせれば,室温まで凍結させられる可能性が出てくる.したがって,例え短時間であっても高速ビデオカメラや高速パイロメータによって準安定相の存在を確認することは,新物質を探索するうえで重要である.本稿で述べた系以外にも,相図の背後にはまだまだ準安定相が潜んでいると思われる.さらなる準安定相の探索を通じて物質科学の領域を拡張していきたいと考えている.謝 辞本研究は数多くの方々との共同研究の結果ですが,中でも当時大学院学生だった石本篤史氏の精力的な実験がなければこの成果は得られませんでした.また本研究の成果の一部は,東京工業大学応用セラミックス研究所共同利用研究を利用して得られたものです.ここに感謝の意を表します.文 献1) “Metastable Solids From Undercooled Melts”, Dieter Herlach, PeterGalenko, Dirk Holland-Moritz, PERGAMON MATERIALS SERIES.2) K. Kato, A. Masuno and H. Inoue: Phys. Chem. Chem. Phys. 17,6495( 2015).3) J. K. R. Weber, J. J. Felten, B. Cho and P. C. Nordine: Nature 393,769( 1998).4) J. Yu, Y. Arai, T. Masaki, T. Ishikawa, S. Yoda, S. Kohara, H.Taniguchi, M. Itoh and Y. Kuroiwa: Chem. Mater. 18, 2169( 2006).5) Y. Watanabe, A. Masuno and H. Inoue: J. Non-Cryst. Solids 358,3563( 2012).6) J. Akola, S. Kohara, K. Ohara, A. Fujiwara, Y. Watanabe, A. Masuno,T. Usuki, T, Kubo, A, Nakahira, K. Nitta, T, Uruga, J. K. R. Weberand C. J. Benmore: Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 110, 10129( 2013).7) 小原真司,藤原明比古,増野敦信,臼杵 毅:日本結晶学会誌55, 356( 2013).8) J. Yu, S. Kohara, K. Itoh, S. Nozawa, S. Miyoshi, Y. Arai, A.Masuno, H. Taniguchi, M. Itoh, M. Takata, T. Fukunaga, S.Koshihara, Y. Kuroiwa and S. Yoda: Chem. Mater. 21, 259( 2009).9) A. Masuno, H. inoue, J. Yu and Y. Arai: J. Appl. Phys. 108, 063520(2010).図6 無容器法で合成した六方晶Lu1-xFexO3 の(a)モル体積,(b)格子定数の変化率の組成依存性.(Composition dependence of (a) the molar volumeand( b) the ratio of the change in the lattice parameterΔl/l0 of hexagonal Lu1-xFexO3.)図7 c/aに対する磁気転移温度TN.( TN vs. c/a of hexagonalRMnO3 and hexagonal RFeO3.)▲:六方晶RMnO3,●:本研究で合成した六方晶Lu1-xFexO3.