ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

日本結晶学会誌 第58巻 第3号(2016) 141大過冷却融液から結晶化した準安定相六方晶鉄酸化物されている.また,O2-の熱振動パラメータUはU(O1)=U(O2)=U(O3)=U(O4)の条件下で決定されている.図3a に決定した結晶構造を示す.32)ab 面内でLu1とLu2が三角格子を形成している層(図3b)と,FeO5三角両錐同士が3つの面内酸素を頂点共有し,Fe3+が三角格子を形成している層(図3c)とがc軸方向に積み重なった積層構造になっている.格子定数はa = 5.96522(5)A,c = 11.7022(2)Aであり,LuMnO3 と比べるとa 軸が短くc軸が長くなっていた.33)Fe3+の5つめのd電子がc軸方向の軌道に入ることで,酸素との電子反発が生じ,FeO5三角両錐がc 軸方向に伸びたためと考えられる.c軸方向へのLu1とLu2の互いに逆方向の変位と,FeO5三角両錐同士のc軸からの傾き(バックリング)とによって,LuとFeO5 三角両錐の層はそれぞれ波打っている.図4に六方晶LuFeO3の粉末回折データを基に,マキシマムエントロピー法によって決定した電子密度分布を示す.三次元電子密度分布図は図3aに示した結晶構造図と同じ範囲で,結晶中の電子密度分布の0.6e A-3の等電子密度面が黄色で描画されている.断面に示した二次元電子密度分布の等高線は0.6~2.0e A-3の範囲を0.2e A-3のステップで描画されている.Lu1-O3の間には共有結合によるものと考えられる軌道混成が明確に見られるのに対し,Lu2-O4の間にはそのような混成は見られない.このLu1-O3間の軌道混成がLu1のc軸方向への変位とFeO5三角両錐のバックリングを生じさせ,強誘電性を発現させる原因であると考えられる.この結晶構造から自発分極PSを点電荷モデル(PS=ΣqjΔrj/Vunit)で見積もった.ここでqjは各イオンの価数で,Lu,Fe,Oはそれぞれ3+,3+,2-とした.Δrjは各イオンの中心対称性のあるP63/mmcでの位置からの変位量,Vunitはユニットセルの体積である.得られた自発分極は約5 μC/cm2 であり,Mn系で観測されている値と同程度であった.34)その後に作製された六方晶LuFeO3薄膜では残留分極6 μC/cm2を示す強誘電性が確認されている.35)三角格子を組んでいるFeO5三角両錐の層のFe3+ (d5)同士には,互いに反強磁性的な相互作用が働く.得られた六方晶LuFeO3は磁気転移温度TN が150 Kの弱強磁性であった.LuFeO3薄膜については磁性データと第一原理計算から,スピンは面内で互いに反強磁性的であるが,c軸方向に少しスピンが傾くことで弱強磁性が発現していると報告されている.35)LuFeO3 の150 K というTNはLuMnO3 の90 K よりも大幅に高い.これはFe3+のd 電子の数がMn3+よりも多いこと,そして面内の距離が短いことによって磁気的相互作用が強くなっているからで図3 (a)準安定相六方晶LuFeO3の結晶構造(300 K).(4/3)a ×(4/3)b × cの範囲を描画.黒線は単位格子を示している.(b)Lu層と(c)FeO5層の結晶構造のc 軸投影図.LuとFe はそれぞれの層で三角格子を形成し,c 軸方向に交互に積層している.((a)Crystal structure of metastable hexagonal LuFeO3. Theregion(4/3)a×(4/3)b×c is depicted. Black lines denotethe unit cell(. b)Lu layer an(d c)FeO5 layer projectedalong c-axis. The Lu and Fe ions form the triangularlattice layers, respectively. These Lu and FeO5 trigonalbipyramid layers alternately stack along the c-axis.)図4 準安定相六方晶LuFeO3の電子密度分布図(300 K).(Electron charge density distribution of metastableLuFeO3.)(4/3)a×(4/3)b×cの範囲を描画.黒線は単位格子を示している.三次元電子密度分布は0.6e A-3の等電子密度面を黄色で,断面の二次元電子密度分布の等高線は0.6 ~ 2.0e A-3の範囲を0.2e A-3のステップで描画されている.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.表1 準安定相六方晶LuFeO3の結晶構造パラメータ(300 K).(Crystal structure parameters of metastableLuFeO3 at 300 K.)空間群はP63cm.格子定数はa= 5.96522(5)A,c = 11.7022(2)A.Atom Site x y z U(10-2 A2)Lu1 2a 0 0 0.27207(6) 0.41(1)Lu2 4b 1/3 2/3 0.2332(4) 0.53(2)Fe 6c 0.333(2) 0 0 0.18(2)O1 6c 0.303(1) 0 0.1542(5) 1.2(2)O2 6c 0.649(3) 0 0.332(1) 1.2(2)O3 2a 0 0 0.472(1) 1.2(2)O4 4b 1/3 2/3 0.017(1) 1.2(2)