ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

120 日本結晶学会誌 第58 巻 第3 号(2016)菅 倫寛BCRは植物のPSI コアでは失われており,11 個のChlaと8個のBCRは結合位置や配向にわずかな変化が見られたが,残りの83 個のChlaと12 個のBCRはまったく変化が見られなかった.さらに植物PSIコアでは新たに4 個のChlaと2 個のBCRが見つかった.植物とシアノバクテリアとの間での集光性色素の配置の変化はPSI コアの周辺においてのみ起こり,その位置から,シアノバクテリアPSI 三量体のモノマー間の相互作用にかかわっているPsaH側とLHCI側とに分類できた.前者のPsaH側における変化はPSI 全体構造の三量体から単量体への変化に伴う,PsaMの喪失とPsaHの獲得に由来する.また,これらのいくつかは単粒子解析から提唱されている集光アンテナII複合体(LHCII)の結合位置の近くに位置しており,PSI-LHCI-LHCIIの“超超複合体”が形成される,“ステートII”においてエネルギーの伝達を担っている可能性が考えられた.8)事実,Chlamydomonas reinhardtiiのPSI-LHCI-LHCII超超複合体の時分割蛍光測定ではわれわれの構造に基づき,LHCIIからのエネルギー伝達経路としてPsaKに結合するChla1401が提案されている.9)一方,後者のLHCI側の集光性色素の配置の変化はPsaXの喪失とPsaGおよびLHCIの獲得によるものであり,LHCIからPSIコアへのエネルギー伝達の効率の向上に寄与していると考えられた.このように集光性色素の配置は植物とシアノバクテリアでPSI コア周囲にわずかな変化が見られたが,ほとんどのChlやBCRは厳密に保存されており,PSIコア内の励起エネルギーの移動(Excited Energy Transfer,EET)のキネティクスはよく似ていると考えられる.ただし,“Red Chl”と呼ばれる,反応中心よりも低いエネルギー準位をもつChlをシアノバクテリアはPSIコア内にもつが,植物ではその大部分がLHCIに存在しているため,光エネルギー捕捉の過程は大きく異なっている.3.LHCIを構成するLhca サブユニットの構造すべてのLhca サブユニットは3本の膜貫通ヘリックスA,B,Cとルーメン側に存在する両親媒性ヘリックスD図3 ChlaとChlbの構造.(Structure of Chla and Chlb.)光合成事典(日本光合成学会編)に使われた図を改変して掲載.図4 Lhcaサブユニットの構造.(Structures of the Lhca subunits.)(a)Lhca1,(b)Lhca2,(c)Lhca3,(d)Lhca4 の構造.(e ~ g)は重ね合わせたもの.(f)ACループ,(g)N末端領域,(h)BCループを拡大したもの.Science 348,989(2015)を改変したものを掲載.