ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

104 日本結晶学会誌 第58 巻 第2 号(2016)談 話 室表があったcrystal spongeといった利用法も開拓されつつある.インドの研究者がこの分野に参加し,研究の裾野が広がることで,5年後にこの分野がどのような発展を遂げているか,楽しみである.筆者が専門としている中性子回折の分野はAsCAでは毎回オーストラリアのANSTOの存在感が大きいのだが,今回も例外ではなく,ANSTOの中性子回折装置を利用した研究がいくつかのセッションで発表されていた.実は今回のAsCA開催時は筆者が所属する中性子実験施設は技術的なトラブルで停止しており,正直なところ肩身の狭い思いであった.ANSTOが存在感を示せるのにはもちろん優秀な研究者や中性子実験装置を有するからだが,加えて研究用原子炉が年間300 日超という日本では考えられない期間稼働していることも大きいと思う.そこまでとは言わなくとも,施設の安定稼働に対して一研究者として何ができるかと考えさせられる学会となった.今回筆者が最も気にしていたのは現地での食事と移動手段である.ただ,食事については元々スパイシーな料理が好きなのに加えて物珍しさも手伝い,生野菜と氷入りのジュース以外はついつい何でも食べてしまっていたが,幸い腹痛に苦しむようなことはなかった.移動については冒頭にも少し書いたが,現地での足のほとんどは学会事務局が車を手配してくれたのがとても助かった.車が時間どおり来なかったり,やってきた車が小さくて乗れない人が出たり,Conference Dinnerの後に手配されたバスがどこに向かうか誰も把握してなかったりといったハプニングはあったが,そんな場合でも割と簡単にタクシーを拾うことができる.確かにいわゆる先進国に行くことに比べると大変だったのは事実である.水や蚊には常に気を使う必要があるし,日本とは異なる文化に戸惑い,警戒することも多々あったが,思いのほか何とかなったという印象であった.2017年のIUCrは同じインドのハイデラバードで開催される.もし参加する機会に恵まれたら,もう少し肩の力を抜いて,もっとうまくインドの日常を楽しんでみたい.最後になるが,今回のAsCAでは中国からの参加予定者は相当数がビザを取得できず,発表がキャンセルになってしまった.国家間の問題なので致し方ないところではあるが,2017年のIUCrの際には状況が好転していることを祈るのみである.第13 回アジア結晶学会2015(AsCA 2015)報告岡山大学異分野基礎科学研究所 菅 倫寛第13 回アジア結晶学会2015(AsCA 2015)は,インド・コルカタのサイエンスシティーにて12 月5 日~ 8 日の4日間の日程で開催された.全参加者が391名に対し,日本からの参加者は46名で例年と比べるとその数は少なかった.しかし,それでもインドに次ぐ最多参加者数であり,日本からの参加者によるKeynoteを含む10 件もの口頭発表があり,Plenary sessionやKeynote sessionの世話人を務めるなど,大きな存在感を示していた.筆者は今回初めてのインドであり,ウェブで下調べをしても会場までの公共交通機関を見つけることができなかったことから学会参加に対して不安を抱いていたが,それらは杞憂に終わった.空港に到着するとホテルまでの移動手段が学会によって用意されており,学会期間中は特に大きなアクシデントに見舞われることもなく快適に過ごすことができた.筆者は学会会場から3キロほど離れたホテルに滞在し,会場への移動にはタクシーを利用した.図2は初日のタクシーの中での様子で,前座席内に運転手を含めて4 人が乗車しているところを背後から写したものである.後部座席にも同様に4 人が乗車しており,全員がスペースを最大限に活用することで車内に納まることができた.車内が狭すぎるため運転手はギアチェンジを行うことができず,3速ギアに入れたままで目まぐるしく停車と発車を繰り返すというドライブがいかに散々だったかは想像に難くないだろう.会議は4つのPlenary session,5つのKeynote session,18 つのMicro Symposium sessionなどによって構成され,4 ~ 5人のトークを含むMS sessionは3会場に分かれていて,参加者が興味のある発表を任意に選択して聞くことができるよう配慮されていた.AsCA 2015 はOpeningCeremonyの後,アリゾナ州立大学のPetra Frommeによる“Serial femtosecond crystallography:The dawn of a newera in structural biology”と題したPlenary sessionによって幕を開けた.彼女のトークではシリアルフェムト秒結晶学の台頭とその現状,そして今後どのような研究が可能となりそれらが構造生物学を牽引していく原動力となるのかについて,LCLSで行ってきた研究を例にわかりやすく説明された.印象的だったのは,LCLSの最初のマシンタイムで彼女らは光合成光化学系I(PSI)と図2 学会会場に向かうタクシー内の様子(有働会員提供)