ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 103日本結晶学会誌 58,103-105(2016)AsCA 2015 参加報告AsCA 2015 参加報告国立研究開発法人日本原子力研究開発機構J-PARC センター大原高志2015 年のAsCAは12 月5 日~ 8 日にインドのコルカタで開催された.筆者はこれが初めてのインド訪問であり,空気がカレーの匂いがするという噂は本当だろうかと期待半分,不安半分で空港のターミナルを出たところ…そこに広がっていたのはスモッグに乱反射する大量の車のライトとクラクションの喧騒,そして排ガスの臭いだった.第1印象は最悪である.空港からは学会事務局が手配した車でホテルに向かったのだが,どの車もろくに車間距離もとらず,クラクションを鳴らしてはほかの車の間をかき分けかき分け進んでいく.30 分足らずの間に10年分くらいのクラクションを聞いて,ようやくホテルにたどり着いた.凄いところに来た,と思った.それでも人間慣れるもので,翌日には車の動きやクラクションのタイミングにも規則性があることがなんとなくわかってくる.考えてみればこれがコルカタでの日常であり,その中で1,000 万人が生活しているのである.その日常の中に,せめて学会期間中は身をゆだねてみることにした.会議が行われたScience Cityはコルカタ市街の東端に位置するテーマパークで,市の中心からは10 kmほど離れた湿地帯にある.いくつかのアトラクションに加えて,学会会場となったホールや会議室がある.会議室のある建物の外見は象の形をしており(図1),右耳がポスター会場,左耳が物理・化学系のオーラル会場であった.初日にはまずSoftware Sessionが生物系と物理,化学系に分かれて行われ,筆者は物理,化学系に参加した.4件中2件が欧州からの発表であり,欧州が大きくリードする分野であるという筆者の印象を裏付けるものであった.筆者は中性子実験施設に所属していることもあり,Prof. B. GuillotによるMoProの紹介の中の,X-N解析の機能に興味をひかれた.X-N解析はX線で電子密度分布,中性子で原子核密度分布を決定することでより精度の高い電子密度分布を求めるという手法だが,MoProではさらに偏極中性子と組み合わせることで,結晶中の不対電子の分布を高精度で求めることに取り組んでいる.分子性結晶に対する偏極中性子の利用はまだまだ発展途上であるが,このような手法をいち早く取り入れていくところに,欧州におけるソフトウェア開発の底力を見た思いがした.また,初日はGeneral Interest Sessionとして“Pharmaceutical”をテーマとしたセッションが行われ,低分子創薬における分子認識やStructural Base DrugDesignに関する発表があった.このセッションに限らず,化学系セッション全体を通してmolecular synthonを利用した研究発表が多く,さすがこの分野を開拓したProf. G. Desiraju の母国であると感じた.2日目以降は物理,化学,生物の3つのパラレルセッションに分かれ,筆者は化学系のセッションを中心に聴講した.その中でやはり目立ったのはいわゆるMOF関連の研究発表で,Prof. M. Eddaoudiによるplenary talkやMicrosymposium 8:Metal-Organic Frameworks and Organic-Inorganic Hybrid Materialsだけでなく,Mycrosymposium2:Engineering of Crystalline and Non-Crystalline SolidsやMycrosymposium 5:Structure and Properties ofFunctional Materials ,Microsymposium 14:ChemicalCrystallography:Hot StructuresといったセッションでもMOF関連の発表があり,インドの研究者の発表も数多くあった.筆者の印象ではMOF関連の研究は2010年のBusanでのAsCAで一気に発表件数が増えて以来,AsCAでの主要トピックであり続けている.そしてわずか5 年後の現在では結晶性材料の構造や機能のデザインに普遍的に利用されるだけでなく,Dr. M. Hoshinoによる発図1 AsCAの会場となったScience Cityのセミナーホール(正面).左手の建物はオープニングの会場となったメインホール.