ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 97三方位からの透過形電子顕微鏡観察と構造因子計算によるBiFeO3エピタキシャル薄膜の結晶対称性の決定電子を透過させる観察手法であり,試料のナノレベルの微小領域からの回折情報を得ることができる利点がある.つまり,電子を透過させる方向を積層断面とすることで数ナノメートルのトンネル障壁層であっても構造解析を行うことができる.しかし,試料を加工して数十ナノメートルまで薄片化するプロセスが加わるため,構造解析のための試料作製の準備に時間を要する.X線回折は逆空間の局所領域を高精密に測定することが容易なため,結晶構造の微妙な歪みに起因した構造の解析を行うことに適しているが,全体的な結晶構造を正確に評価するために必要な逆空間において広い領域の情報(特に面内方位)を得ることは容易ではない.X線回折(Cu-Kαの場合:λ = 0.1540 nm)に比べて,200 kVの高電圧を用いた透過型電子顕微鏡(TEM)では電子ビームの波長(λ= 0.00251 nm)が短いことから逆空間においてQ(散乱ベクトル)=220 nm-1まで広い領域から情報を得ることができる.15),16)TEMは試料の観察方位を適切に決めることにより,すべての面内方位に関する逆空間での情報を得ることができる利点を有する.これまでに,TEMを用いたBFOの電子線回折測定に関するいくつか報告があるが,1つの結晶方位([100]STO)のみ調べており,包括的にBFO薄膜の結晶対称性を議論するためには不十分であると考えられる.4),17),18)これは,TEM観察用の試料作製に時間を要するため,これまで複数の方位で系統的に調べられてこなかったことが一因であると考えられる.以上の背景に踏まえて,本稿ではBFO薄膜の結晶対称性を詳細に調べるため,単結晶STO上にBFOをエピタキシャル成長させて3 つの異なる方位から電子線回折測定を行い,構造因子計算との比較検討により包括的な構造解析を行った.19)2.実験方法30 nm厚さのエピタキシャルBFO薄膜を(100)STO基板上に超高真空r.f.マグネトロンスッパッタリング法により作製した.製膜前の到達真空度は2 × 10-6 Pa以下であった.スパッタリングターゲットには2 インチ径のBi0.9Fe1.0Ox 焼結ターゲットを用い,不足する酸素を補うためアルゴンガスに酸素ガスを混合させたプロセスガスを用いた.BFOの結晶化のため製膜時の基板温度を550℃とした.断面観察用の試料作製には機械研磨とArイオンミリング法を用いた.Arイオンミリグのダメージを最小限にするためArイオンのエネルギーは4.0 kVから1.5 kV まで段階的に低下させながら加工を行った.断面TEM試料の観察には日本電子社製のJEM-2100Fを用いた.精度の高い結晶構造解析を行うため,STO基板を基準として3つの結晶方位からナノビーム電子回折(NBED)測定を行った.なお,電子線回折に用いた電子ビームの直径を10 ~20 nmとした.NBEDの精密な検出のため従来のCCDカメラに比べ電子線ダメージに対し優れた耐性を有するGatanのOrius 833 CCDカメラを用いた.20)3.実験結果3.1 r.f.マグネトロンスパッタ法によるBiFeO3エピタキシャル膜の作製酸化物をスパッタリングにより作製するとき,製膜時の酸素ガス流量,投入電力,基板間距離などの製膜パラメーターは膜質および組成比に影響する.ここでは,組成と表面平坦性に最も影響を与えた酸素ガス流量について述べる.21)図1は製膜時の酸素ガス流量に対する図1a BiとFeの組成比および図1b結晶構造を示す.酸素ガス圧を0.008 ~ 0.120 Paの間で変化させ,その後にアルゴンガスを加えて酸素ガスとアルゴンガスの全ガス圧を0.4 Pa になるように調整した.アルゴンガスに対して酸素ガス流量比は0 ~ 50 %の間で変化した.図1aからアルゴンガスのみで製膜したときはBiFeO3の化学量論組成となっていることがわかる.酸素ガスを導入すると,いったん組成がずれ,酸素ガス流量を増加させると酸素ガス流量が7 cm3/min.のときBiFeO3の化学量論組成となった.さらに酸素ガス流量を増加させると,BiとFeの組成比が大きくずれていくことがわかった.図1b図1 (a)スパッタ製膜時の酸素ガス分圧に対するBiとFeの組成比,(b)2 theta-XRDパターン.20) ((a)Bi and Fe compositional ratio and (b)2 theta-XRDpatterns as a function of oxygen gas pressure duringthe sputtering deposition.)