ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 95超巨大タンパク質会合体ヘモシアニンのX線結晶構造解析要であることが明らかになった(図5C).先述のとおり,プロトマー同士の会合は,外壁領域同士の接触と,内部領域のプロトマー間FU2量体形成により安定化されているが,おそらく糖鎖修飾はこれらを補強するように機能しているものと推察される.また,糖鎖修飾のいくつかは,ヘモシアニンのアロステリック効果に重要な部位に存在していた.6)したがって,糖鎖修飾は,プロトマー間の相互作用を強めるだけでなく,アロステリック効果をとおしてヘモシアニンの酸素運搬機能にも寄与している可能性がある.今後,生化学的実験により,その詳細が明らかになることを期待している.7.まとめ筆者らは,超巨大なヘモシアニン会合体のX線結晶構造解析に初めて成功し,これによりFU同士の会合様式の詳細や,糖鎖修飾についての知見を得ることができた.ヘモシアニンは医工学的に応用されている分子であるが,本研究により明らかになった原子構造が,その応用研究をさらに加速すると期待している.ヘモシアニンはその分子サイズから,クライオ電子顕微鏡による構造解析のターゲットとして古くから研究されてきた.しかし,糖鎖修飾や活性部位近傍の詳細な構造を議論できるほどの構造情報はクライオ電子顕微鏡の研究からは得られていない.高精度の電子密度が得られるのは,X線結晶構造解析の最大の長所である.一方で,結晶中でのパッキングの影響から,2つのコンフォメーションが混在し,内部領域の詳細な構造を決定することができなかった点は,X線結晶構造解析に特有な問題点である.近年,クライオ電子顕微鏡の技術の進歩が著しい.お互いの長所を活かし,短所を補いながら,これらを駆使していくのが今後の構造生物学の重要な方向と思う.謝 辞本研究を推進するあたり,旭川医科大学 加藤早苗助教,北海道立工業技術センター 吉岡武哉博士,清水健志博士,北海道大学大学院水産科学研究院 岸村栄毅准教授,東京大学大学院農学生命科学研究科 寺田 透准教授,北海道大学大学院先端生命科学研究院 田中勲特任教授,姚 閔教授,加藤公児助教に大変お世話になりました.深く心よりお礼申し上げます.どうもありがとうございました.また,本成果は,科学研究費補助金および文部科学省創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業の支援により得られました.文 献1) J. Markl: Biochimica et biophysica acta 1834, 1840( 2013).2) M. I. Becker, et al.: Mollusk Hemocyanins as Natural Immunostimulantsin Biomedical Applications. In Immune ResponseActivation, G. H. T. Duc, ed.( InTech),( 2014).3) C. Gatsogiannis, et al.: Journal of Molecular Biology 374, 465(2007).4) C. Gatsogiannis and J. Markl: Journal of Molecular Biology 385,963( 2009).5) C. Gatsogiannis, et al.: Structure 23, 93( 2015).6) Q. Zhang, et al.: Structure 21, 604( 2013).7) A. Matsuno, et al.: J. Struct. Biol. 190, 379( 2015).8) Z. Gai, et al.: Structure 23, 2204( 2015).プロフィール松野明日香 Asuka MATSUNO北海道大学大学院生命科学院Graduate School of Life Science, Hokkaido University〒060-0810 北海道札幌市北区北十条西八丁目Kita 10 Nishi 8, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 060-0810, Japane-mail: matsuno@castor.sci.hokudai.ac.jp専門分野:タンパク質結晶工学趣味:食べ歩き現在の研究テーマ:ヘモシアニンの内部空間を用いた応用田中良和 Yoshikazu TANAKA北海道大学大学院先端生命科学研究院,独立行政法人科学技術振興機構, さきがけ(兼任)Faculty of Advanced Life Science, HokkaidoUniversityJapan Science and Technology Agency, PRESTO〒060-0810 北海道札幌市北区北十条西八丁目Kita 10 Nishi 8, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 060-0810, Japane-mail: tanaka@sci.hokudai.ac.jp専門分野:タンパク質科学趣味:ゴルフ,芝生の手入れ現在の研究テーマ:ヘモシアニンを用いた応用研究