ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

94 日本結晶学会誌 第58 巻 第2 号(2016)松野明日香,田中良和体(FU- (g-g))を形成していた.さらに,FU- (g-g)も,FU- (a-b)をはじめとした外壁領域のFU2量体と非常に類似した2 量体構造を形成していた(図4C).これは,外壁領域と内部領域のすべてを含めたヘモシアニン全体が,FU2量体を1つの構造単位として構築されていることを意味する.FU- (g-g)は遠く離れたプロトマー間の(例えばプロトマーAとD)ドメインスワップ2 量体である(図4B).上記のとおり,隣接するプロトマー同士は,外壁領域の複雑なドメインスワップにより2 量体化している(図4A,C).内部領域は,遠く離れたプロトマー間でFU2量体を形成することで,2量体化したプロトマー同士の会合を安定化し,10量体形成に強く貢献していると考えられる.以上のように,80個の非常に類似したFUにより構成される巨大会合体ヘモシアニンは,複雑にドメインスワップしながらプロトマー間でFU2量体を形成し,それらがうまく組み上がることで構築されていることが明らかになった.すなわち,プロトマーAは隣接するプロトマーBとプロトマー間でFU- (d-e)とFU- (c-f)を形成して2 量体化し(図4A),さらに,遠く離れたプロトマーDとは内部領域でプロトマー間のFU- (g-g)を形成することでさらに高次に会合し(図4B),このような相互作用がすべてのプロトマーで形成されることにより,メガダルトンスケールの巨大タンパク質会合体が形成されるのである.FU2量体を形成するFU同士の接触面積は,それ以外のFU間の接触面積に比べて有意に大きく,このことからもFU2量体が安定な構造単位となり,それらが会合することで巨大なヘモシアニンが形成されていることがわかる.6.糖鎖修飾と会合体形成ヘモシアニンには糖鎖修飾が存在することが知られている.明らかになった構造において,FU-a,-b,-d,-eの4 つのFUにN型糖鎖が結合していた(図3A,5A).これらのFUには,CTDの共通する位置に糖鎖が結合しており,FU-dのNTDにはさらに糖鎖が1つ結合していた(図3A).全体構造で見ると,糖鎖はすべて外壁領域の外側に結合しており, しかもそれらは非常に近接していた( 図5B).糖鎖は3つのプロトマー( 例えばプロトマーA,I,Jの位置関係にあるもの)の境界に密集しており(図5B),プロトマー間の相互作用に何らかの影響を与えていると考えられた.実際に,N-グリコシダーゼFにより糖鎖を消化すると,10量体への再会合効率が減少することが確認され,プロトマー同士の会合に糖鎖が重FU-gA FU-gDFU-(g?g)(プロトマー間FU2 量体)FU-eB FU-dAFU-(d-e)(プロトマー間FU2 量体)FU-fB FU-cAFU-(c-f)(プロトマー間FU2 量体)FU-bA FU-aAFU-(a-b)(プロトマー内FU2 量体)(C)protomer A protomer Cprotomer Dprotomer BFU-gAFU-gDFU-gBFU-gCCU2O2 clusterof FU-d*(B)FU-cBFU-bAFU-aBFU-fBFU-fAFU-cAFU-bBFU-aAFU-eAFU-dAFU-dBFU-eB(A)図4 FU2量体の構造.(FU dimer.)(A)プロトマーA,Bの各FUの位置( 円筒の外側から見た図).FU-cAはプロトマーAのFU-cであることを意味する.(B)各プロトマーのFU-gの位置(円筒の内側から見た図).(C)各FU2量体の構造.4種類のFU2量体のうち,3種類がプロトマー間のドメインスワップ2量体である.これらの図は,Elsevierの許可を得て文献8)から転載した.(C)glycan-387Aglycan-806Aglycan-1636A glycan-1498Aglycan-2472Bglycan-387Jglycan-806Jglycan-1636Jglycan-1498Jglycan-2472I(B)GlcNacGlcNacManMan(A)図5 糖鎖修飾.(Carbohydrate.)(A)FU-dの糖鎖の電子密度.(B)10量体上での糖鎖修飾の位置.糖鎖をballで表示してある.プロトマーごとに色を変えて表示してある.glycan-1636A はプロトマーAのAsn1636に結合している糖鎖であることを意味する.(C)N-グリコシダーゼF消化によるヘモシアニンの再会合率の変化.糖鎖を切断することにより再会合率が大きく減少することが見てとれる.これらの図は,Elsevierの許可を得て文献8)から転載した.