ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

ページ
38/72

このページは 日本結晶学会誌Vol58No2 の電子ブックに掲載されている38ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol58No2

90 日本結晶学会誌 第58 巻 第2 号(2016)田尻恭之,美藤正樹特に5 nm以下で興味深いサイズ依存性を示している.2~ 4 nmの狭いサイズ範囲内で粒子サイズに対して単調ではない急峻な変化を示し,格子定数,結晶構造のひずみ(菱面体晶ひずみ)と格子ひずみの間に相関がある.また,ナノ粒子で現れたその菱面体晶ひずみ([111]方向の膨張)はバルク結晶([111]方向の収縮)とは逆の振る舞いである.8 nm以下では,岩塩型構造の異方的なひずみと格子ひずみがナノ粒子中の磁気秩序に強く影響を及ぼし磁気相互作用や磁気異方性定数を変化させたと考えられる.一方,8 nm以上では,粒子形状のひずみにより磁気異方性定数の変化が誘起され,保磁場や異方性エネルギーなどが球状ナノ粒子の値から大幅に減少したと考えられる.このような特徴的な振る舞いは,NiOがモット絶縁体と考えられた過去があるなど電子相関が強く結晶構造と磁性の間に強い相関をもつ物質であることに起因する.ナノメートルサイズで発現する電子状態と結晶構造の変化が互いに絡み合い,理論研究で示唆されたサイズ減少に伴う磁気副格子構造の変化や本研究で明らかにした結晶構造や磁性の変化といった特有な振る舞いが生じると考えられる.6.おわりにメソポーラスシリカの細孔中でのナノ粒子の合成方法ならびにNiOナノ粒子の結晶構造と磁性のサイズ効果について紹介した.ナノ粒子作製にはいろいろな手法が用いられるが,本研究で用いているメソ多孔体の細孔中で合成する手法は,鋳型となるメソ多孔体を変えることによりナノ粒子のサイズや形状を変化させることが可能であるという特長がある.過去にNiOにおいてサイズ依存性の研究はあったが,形状を操作項目にした研究はわれわれの研究が初めてである.メソ多孔体の細孔中にナノ粒子が存在するために結晶構造解析や物性測定の難易度が増すが,細孔中に存在するナノ粒子は粒子が凝集することがなく,独立系としてのナノ粒子の物性を明らかにすることができるというメリットがある.また,メソ多孔体の細孔という限られたナノメートルサイズの空間で物質を合成するため粒子サイズを制御することが可能になり,詳細なサイズ依存性の調査をすることができる.ナノ粒子の物性を詳細に解明するためには粒子サイズの制御が必要不可欠であり,また,結晶構造を明らかにし物性との相関を調べることが重要である.筆者は非磁性であるメソポーラスシリカを鋳型としナノ粒子の合成を行ってきたが,今日までに報告例がほとんどない銅酸化物高温超伝導体やマルチフェロイック物質などの数ナノメートルサイズのナノ粒子の合成に成功し,特異な結晶構造と磁性のサイズ効果を明らかにしている.今後,ナノ粒子の応用利用がより多くなると推測されることから,ナノ粒子を対象とした研究は合成や測定技術の発展も相まってより活発に行われ,詳細な結晶構造と物性の研究が報告されていくと期待される.謝 辞本稿で紹介した研究は愛媛大学の小西健介准教授,九州工業大学の出口博之教授,福岡大学の香野 淳教授との共同研究である.X線構造解析は高エネルギー加速器研究機構,フォトンファクトリーのBL-8B(課題番号:2011G511,2013G523)で実施した.本研究は科研費基盤研究(C)課題番号23550158 の助成を受けた.文 献1) T. Tajiri, et al.: J. Phys. Chem. C 119, 1194( 2015).2) K. Terakura, et al.: Phys. Rev. Lett. 52, 1830( 1984).3) C. Rodl, et al.: Phys. Rev. B 79, 235114( 2009).4) J. S. Beck, et al.: J. Am. Chem. Soc. 114, 10834( 1992).5) D. Zhao, et al.: Science 279, 548( 1998).6) T. Tajiri, et al.: J. Appl. Phys. 110, 044307( 2011).7) M. hutchings, et al.: Phys. Rev. B 6, 3447( 1972).8) S. Thota, et al.: J. Phys. Chem. Solids 68, 1951( 2007).9) M. P. Proenca, et al.: Phys. Chem. Chem. Phys. 13, 9561( 2011).10) M. Ghosh, et al.: J. Mater. Chem. 16, 106( 2006).11) M. Feygenson, et al.: Phys. Rev. B 81, 014420( 2010).12) T. Tajiri, et al.: J. Magn. Magn. Mater. 345, 288( 2013).13) A. O. G. Maia, et al.: J. Non-Cryst. Solids 352, 3729( 2006).14) R. H. Kodama, et al.: Phys. Rev. Lett. 79, 1393( 1997).15) R. H. Kodama, et al.: Phys. Rev. B 59, 6321( 1999).16) N. M. Carneiro, et al.: J. Phys. Chem. C 114, 18773( 2010).17) E. Winkler, et al.: Phys. Rev. B 72, 132409( 2005).18) S. A. Makhlouf, et al.: Solid State Commun. 145, 1( 2008).プロフィール田尻恭之 Takayuki TAJIRI福岡大学理学部物理科学科Department of Applied Physics, Faculty of Science,Fukuoka University〒814-0180 福岡市城南区七隈8-19-18-19-1 Nanakuma, Jonan-ku, Fukuoka 814-0180, Japane-mail: tajiri@fukuoka-u.ac.jp最終学歴:博士(工学)専門分野:ナノ構造物性現在の研究テーマ:ナノ粒子の結晶構造と物性の解明美藤正樹 Masaki MITO九州工業大学大学院工学研究院基礎科学研究系Department of Basic Science, Graduate School ofEngineering, Kyushu Institute of Technology〒804-8550 北九州市戸畑区仙水町1-11-1 Sensui-cho, Tobata-ku, Kitakyushu-shi, Fukuoka804-8550, Japane-mail: mitoh@mns.kyutech.ac.jp最終学歴:博士(工学)専門分野:固体物性現在の研究テーマ:高圧力下における精密磁気測定