ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 89メソポーラスシリカ中に形成されたナノスケール磁性体の構造物性の研究なる振る舞いを示した.d = 10 nm以下での粒子サイズ減少に伴うシェルモーメントの増大は,前述のサイズ減少による副格子構造の変化に伴う磁気モーメントの増大14),15)に起因していると考えられる.また,合成したd =7 nm以上のナノ粒子は粒子形状が歪んでおり(球状から回転楕円体状に形状が歪んでいる),この形状の変化がシェルモーメントの減少の原因になっていると推察される.このように,SBA-15細孔中のNiOナノ粒子は粒子サイズおよび粒子形状に起因した特異なサイズ依存性を示す興味深い物質であると言える.次に,合成したNiOナノ粒子の磁気異方性エネルギーのサイズ依存性を議論する.一般に,磁気異方性エネルギーは磁気異方性定数と体積の積で記述できる.すなわち,磁気異方性定数が一定であれば,粒子サイズの増大に伴い磁気異方性エネルギーは増加する.合成したNiOナノ粒子の磁気異方性エネルギーを交流磁化率の測定結果よりArrhenius プロットを用いて算出した.その結果を図8aに示す.合成したNiOナノ粒子の磁気異方性エネルギーのサイズ依存性は図7 のシェルモーメントと同様に,約3 nmから10 nmの間に最大値を示し,10 nm以上ではほぼ一定となる.すでに先行研究で報告されている20 nm以下の球状のNiOナノ粒子の異方性エネルギーは,上述のように粒子サイズに比例して増加する傾向を示す.9),16)SBA-15の細孔中で合成したd <4 nmのナノ粒子は球状であるためサイズに比例して異方性エネルギーが減少し,先行報告されている結果に繋がる.しかし,d >10 nmの粒子形状が歪んだナノ粒子はこの傾向から外れ,ほぼ一定の値である.粒子サイズが10 nm以上のSBA-15細孔中のNiOナノ粒子の磁気異方性エネルギーは,同サイズの球状のNiOナノ粒子より小さく1/10程度の大きさである.この差異は磁気異方性定数が粒子サイズと粒子形状に依存していることを示唆している.保磁場やブロッキング温度はこの磁気異方性定数の関数として記述される.SBA-15の細孔中に合成したNiOナノ粒子はブロッキング温度以下の磁化過程においてヒステリシスループを示す.このヒステリシスループの保磁場Hcは温度低下に伴い単調増加する.5 K での保磁場のサイズ依存性を図8bに本研究結果と併せて報告されているほぼ球状のナノ粒子の研究結果10),17),18)も示す.SBA-15中に合成したナノ粒子は,粒子サイズの増加につれてHcが増大するが,約8 nm以上で急激に減少しほぼ一定となる.8 nm以上において報告されている球状ナノ粒子の結果と顕著な違いがみられるが,これはSBA-15 細孔中の8 nm以上のナノ粒子の形状が球状から回転楕円体へと歪んでいるためと考えられる.通常,保磁場はサイズと異方性エネルギーの増大とともに増加する.しかし,本研究で合成した10 nm以上のナノ粒子は粒子サイズの増加にもかかわらず保磁場は増加しない.よって,この結果はSBA-15細孔中に合成したNiOナノ粒子は粒子サイズとともに磁気異方性エネルギーが変化していることを示唆しており,実際に,この保磁場と前述の磁気異方性エネルギーのサイズ依存性は同様である.保磁場同様に合成したNiOナノ粒子のブロッキング温度のサイズ依存性も磁気異方性エネルギーのサイズ依存性と矛盾しない.以上のように,SBA-15細孔中に合成した約2 ~ 22 nmの粒子サイズのNiOナノ粒子の結晶構造と磁性の詳細な系統的な実験的研究結果によって,NiOナノ粒子は結晶構造と粒子形状と磁性の間に相関があることがわかった.本研究結果は,8 nm以下の粒子サイズ変化による結晶構造と磁性の変化,8 nm以上の粒子形状のひずみと磁性の変化という2 つの要因が絡んでいる.結晶構造は図7 NiOナノ粒子のシェルモーメントのサイズ依存性.(Particle size dependence of shell moment for NiOnanoparticles in SBA-15.)挿入図は2.9 nm のナノ粒子の磁化過程のフィッティング結果と得られたコアおよびシェルモーメント,およびコア/シェルモデルの粒子中のスピン配列の概略図.図8 NiOナノ粒子の磁気異方性エネルギー(a)と保磁場(b)のサイズ依存性.(Particle size dependences ofmagnetic anisotropy energy and coercive field for NiOnanoparticles in SBA-15.)図中の●は本研究結果であり,白抜きシンボルは球状ナノ粒子における研究結果.9),10),16)-18)