ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

88 日本結晶学会誌 第58 巻 第2 号(2016)田尻恭之,美藤正樹少傾向は3,7,12,24 nmのNiOナノ粒子の研究結果10)と一致する.c/aのサイズ依存性もa,c同様に粒子サイズの増大に伴いd? ??3?nmで最大となり単調減少し,d? ??10 nm以上ではその値はぼほ√6である.c/a>√6は岩塩型構造が[111]方向に伸びていることを意味し,バルク結晶で見られる[111]方向の収縮(c/a<√6)とは逆の振る舞いである.このように,NiOナノ粒子の結晶構造は,粒子サイズが10 nm以下でサイズの減少に伴い菱面体晶ひずみが顕著になり,そのひずみ量は増加する.しかし,d???3?nm 以下ではそのひずみは減少している.ナノ粒子において,上記のような結晶構造(単位胞)のひずみとは別に格子ひずみが誘起されることがあり,その格子ひずみはナノ粒子の物性と相関することがある.筆者はSBA-15の細孔中に約7 ~ 15 nmの粒子サイズをもつDyMnO3ナノ粒子の合成に成功し,そのナノ粒子の斜方晶ひずみと格子ひずみの間に相関があり,それらは物性に大きな影響を及ぼしていることを明らかにしている.12)格子ひずみを評価する方法として,Williamson-Hallプロットを用いる手法がある.観測される回折ピークは結晶子の大きさと格子ひずみにより広がるが,それらを分離する方法として,図6の挿入図に示すようなWilliamson-Hallプロットがある.直線の傾きが格子ひずみを切片の逆数が結晶子サイズを与える.SBA-15細孔中に合成したNiOナノ粒子の格子ひずみの評価をWilliamson-Hallプロットを用いて行った.得られたNiOナノ粒子の格子ひずみのサイズ依存性を図6 に示す.格子定数a,cやc/aと同様に格子ひずみも約3 nmで最大値を示し,粒子サイズの増大に伴い格子ひずみは減少し,約5 nm以上ではほぼ一定の値となる.得られた値は12.8~ 60.3 nmのNiOナノ粒子の研究結果9),13)と同等である.これらの結果は,NiOナノ粒子は格子定数,菱面体晶ひずみと格子ひずみの間に相関をもち,また,NiOナノ粒子の格子ひずみは粒子サイズの変化に敏感であり,それは粒子サイズの減少に伴い顕著になることを示唆している.5.メソ多孔体細孔中のNiO ナノ粒子の磁性強磁性体結晶中で自発磁化を揃えようとした場合,表面に発生する磁極に起因する静磁エネルギーが大きくなるため,分割し複数の磁区(磁区境界の磁壁)を形成しようとする.磁区が小さくなるにつれ静磁エネルギーは減少し,磁壁成形によるエネルギーと拮抗し,結果的に系全体のエネルギーを低下させるように磁区の大きさが決まる.磁性体ナノ粒子では粒子サイズに依存した次のような特有な現象が現れる.粒子サイズが減少すると臨界径以下で単一磁区構造(結晶中で自発磁化がすべて揃った状態)となる.各粒子中の磁化が1つの大きな磁気モーメントとしてみなすことができ,熱エネルギーが磁気異方性エネルギーより十分大きくなると粒子中で1つに揃った磁気モーメントが熱的に揺らぐ.これを超常磁性といい,その磁化過程はLangevin関数によって記述することができ,実験結果を理論曲線でフィッティングすることにより,粒子サイズや粒子当たりの磁気モーメントを評価することが可能である.NiOのような反強磁性体の場合,粒子内部では反強磁性秩序のため各モーメントは相殺され,反強磁性秩序で相殺されない表面に出現した副格子磁化が超常磁性モーメントを担うことになる(図7 挿入図参照).通常の磁気サイズ効果として,この超常磁性の出現や磁気転移温度の低下などが挙げられる.また,NiOの場合,約6 nm以下で粒子サイズの減少に伴い副格子構造が通常の反強磁性体の2副格子から変化し最終的に8 副格子構造が安定になるという理論計算結果があり,14),15)実際,磁気モーメントの大きさは副格子構造の変化を反映する.SBA-15細孔中に合成した約2 ~22 nmの粒子サイズをもつNiOナノ粒子の磁性は,磁化過程の結果よりコア/シェル(コア:反強磁性,シェル:強磁性)モデル(図7挿入図)で説明することが可能である.これは報告されている研究結果8),14)と同様である.合成したNiOナノ粒子の磁化過程は粒子表面の相殺されないスピンによる超常磁性に起因する成分(シェルモーメント)と粒子内部の反強磁性成分(コアモーメント)の和(Langevin関数と磁場に比例する成分の和)で再現することが可能であり,実験結果へのフィッティングによりシェルモーメントのサイズ依存性が得られた(図7).シェルモーメントは粒子サイズが3.3 nmと8.6 nmの間に最大値をもち,約12 nm以上ではほぼ一定となる.粒子サイズの増大に伴いナノ粒子の表面積は増大するためシェルモーメントは大きくなると推測されるが,しかし,合成したNiOナノ粒子は逆に粒子サイズが8 nm以上で減少し,一定と図6 NiOナノ粒子の格子ひずみのサイズ依存性. (Particlesize dependence of lattice strain for NiO nanoparticlesin pores of SBA-15.)挿入図はd = 2.9 nmのナノ粒子のWilliamson-Hallプロット.