ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 87メソポーラスシリカ中に形成されたナノスケール磁性体の構造物性の研究3.メソ多孔体中でのNiO ナノ粒子の合成酢酸ニッケル四水和物水溶液を前駆体溶液とし,XRDとTEMより細孔径が約7 nmと算出されたSBA-15の細孔中にNiOナノ粒子を合成した.これより後述の粒子サイズはX線構造解析より得られた値である.X線構造解析の結果は,約2 ~ 22 nmの粒子サイズをもつNiOナノ粒子の合成に成功したことを示唆した.図3 はSBA-15細孔中に合成したNiOナノ粒子(粒子サイズd = 3.7 nm(a)とd = 12.2 nm(b))のTEM像である.細孔中にナノ粒子の存在を示す暗いスポットが存在する.SBA-15の一次元細孔中のナノ粒子は前述のように凝集することなく細孔中に整列している.また,挿入図のようにナノ粒子の粒子サイズ分布は小さい.粒子サイズd = 3.7 nm のナノ粒子の形状はほぼ球状であり,d = 12.2 nm のナノ粒子は回転楕円体の形状をしている.後者は約7 nmの一次元細孔中に合成したことに起因しており,細孔径より大きな粒子サイズのナノ粒子(d > 7 nm)は回転楕円体もしくはロッド状の形状をしていると考えられる.4.メソ多孔体細孔中のNiO ナノ粒子の結晶構造NiOバルク結晶はNaClと同じ岩塩型構造の結晶構造であり,反強磁性転移温度TN = 523 K以下で立方晶から菱面体晶に歪んだ岩塩型構造へと構造相転移する.この菱面体晶ひずみは[111]方向に収縮している.7)NiOナノ粒子の室温における結晶構造は立方晶,8)-10)菱面体晶11)の両方の主張が混在している.SBA-15の細孔中に合成したNiOナノ粒子の粉末X線回折実験は高エネルギー加速器研究機構,フォトンファクトリー内BL-8Bにて室温で行われた.実験試料をガラスキャピラリーに封入後,それをデバイシェラーカメラにセットし,18 keV の入射X線を用い長時間露光を行った.図4 にSBA-15の細孔中に合成した異なる粒子サイズをもつNiOナノ粒子の粉末X線回折パターンと菱面体晶に歪んだ岩塩型構造のシミュレーションパターンを示す.これらの結果は,メソ多孔体SBA-15およびガラスキャピラリーに起因するバックグラウンド補正後の結果である.得られたX線回折パターンは,ブロードな回折ピークを示し,合成したすべてのNiOナノ粒子は菱面体晶に歪んだ岩塩型構造であること示唆している.ナノ粒子の粒子サイズは観測された全回折ピークを用いてScherrer の式より算出された.その結果は,TEM観察で得られた粒子サイズとよい一致を示す.Rietveld解析を行いNiOナノ粒子の格子定数のサイズ依存性を得た(図5).図5a ~ cはそれぞれ格子定数a,cと菱面体晶ひずみの度合いを表す格子定数比c/aである.このc/a の値が√6 の場合その結晶構造は立方晶に一致する.図5a,bの水平点線は室温でのバルク結晶の格子定数であり,図5cの水平点線は√6を示している.格子定数はa,c ともにd???3?nm で最大値をとり,粒子サイズの増大につれ単調減少し,d???10?nm でバルク結晶の値とほぼ一致する.d???3?nm以上で見られる格子定数の減図3 SBA-15細孔中のNiOナノ粒子のTEM像.(TEMimages of NiO nanoparticles synthesized in poresof SBA-15.)(a)粒子サイズd = 3.7 nm,(b)d =12.2 nm.図4 SBA-15細孔中のNiOナノ粒子のXRDパターン.(Powder XRD patterns for NiO nanoparticles in SBA-15.)図5 NiOナノ粒子の格子定数a(a),c(b)とc/a(c)のサイズ依存性.(Particle size dependences of latticeconstants and lattice constant ratio.)(a),(b)中の水平点線はバルクの格子定数,(c)中の水平点線は立方晶に一致する値(c/a =√6).