ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 83軌道角運動量をもつ電子ビーム程である.図6aは回折格子を通過直後の強度分布であり,伝播にともない図6b,c の順に強度分布が変化する.図6dは無限遠方場での強度分布,すなわち回折図形である.異なるスリットを通過した電子が干渉し,離散的な回折強度を形成する様子が見てとれる.無限遠方では鋭い回折ピークを形成するが,各回折ピークの中心には暗点が見られる.この暗点がらせん状波面の中心(位相特異点)に対応する.図6d の回折図形には,一次回折ピークのみならず,二次以降の回折ピークも現れている.ホログラムを作製時に物質波として存在していなかった二次以降の回折波が現れる理由は,回折格子を作製する際に2 値化したことによる.生成される回折波はすべてらせん波であるが,そのトポロジカル数,すなわち軌道角運動量は,回折次数により異なる.n次の回折波のトポロジカル数はn である.また,負の次数の回折波のトポロジカル数は負号が付き,- n のようになる.図7aおよび図7b は,それぞれフォーク型回折格子のTEM像およびそのフォーク型回折格子に電子線を照射して得た回折図形である.この回折図形には七次の回折ピークまで見られ,各回折ピークの中央にらせん波であることを示す暗点が見られる.各回折ピークはドーナツ状の強度分布を示しているが,その半径は回折次数の大きさに比例して増大している.図7b の回折図形には偶数次の回折ピークが見られない.これは回折格子の開口部と遮蔽部の幅の比が1:1の場合に起こる消滅則によるものである.また各回折ピークのまわりには同心円状の多重リングが見られる.これは回折格子全体の形状を決める窓関数が丸孔であるため,そのフーリエ変換であるエアリーディスクが各回折ピークにコンボリューションされたものと考えられる.図7c は実験に用いたフォーク型回折格子のTEM像のフーリエ変換図形である.各回折ピークの中心に暗点が見られる点,回折次数に比例してドーナツ半径が増大する点だけでなく,各回折ピークの周囲に見られる強度の弱い同心円状のパターンも含めて実験図形ときわめてよい一致を示していることがわかる.7.さいごに角運動量は,並進運動量や全エネルギー(ハミルトニアン)と同様,系の保存量であり*1,それを利用した物理計測・物性測定が期待される.33),34)光および各粒子線の物理的性質(波長,電荷,質量,物質との相互作用係数(散乱断面積))の違いを反映して,渦波の物理的性質も多様である.電子線の場合,物質との相互作用がきわめて強いこと,荷電粒子であること,スピンをもつこと,質量をもつフェルミオンであることなどの特徴があり,これらの特徴を活かしたナノスケールでのキラリティーイメージング8)や原子分解能での磁気イメージング,35)ナノ材料のマニピュレーションの可能性36)が提案され*1 運動量の保存則は空間の対称性と密接に関係している(ネーターの定理).自由空間を運動する粒子の並進運動量および角運動量は保存するのは(波数kや角運動量lが「良い量子数」であることは)空間の対称性から要請されるものである.図6 図4のフォーク型回折格子を通過した電子の伝播する様子.(Intensity distribution of propagating electronsafter passing through the forked grating shown in Fig.4.)(a)~(d)実験.(e)~(d)シミュレーション.図7 (a)フォーク型回折格子のTEM像.(b)回折面に現れた一連の電子らせん波.(c)フォーク型回折格子のTEM像のフーリエ変換図形.((a)TEMimage of a forked grating mask.(b)A series ofdiffracted electron vortex beams observed in thediffraction plane.(c)Fourier transform pattern of theTEM image of( a).)