ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

82 日本結晶学会誌 第58 巻 第2 号(2016)齋藤 晃,内田正哉留意すべきは,このような非一定の振幅分布が伝播とともに形を崩さず安定に伝播する点である.6.電子らせん波の生成電子らせん波は,通常の平面波の位相変調または振幅変調により生成することができる.これまで生成されてきた電子らせん波はこれら2 つの方法によるものがほとんどである.電子らせん波の最初の報告3)は,位相変調による位相板を用いたものであった.図3 はその生成法を示したものである.炭素や窒化ケイ素などの薄膜を通過した電子は,その厚さに応じた位相変調を受ける.試料の厚さtが薄い場合,電子波が受ける位相変化の大きさΔ?は,tに比例する.したがって,厚さがらせん状に変化した炭素膜に電子の平面波を通過させると,らせん状の波面をもつ電子波が生成される.このらせん状膜の最も厚い位置と最も薄い位置での位相変化の差がちょうど2πであれば,トポロジカル数1 の電子らせん波が生成される.内田らの最初の報告は,らせん階段状に厚さが変化した炭素膜を用いたものであった.最近では,収束イオンビーム(FIB)を用いて非晶質窒化ケイ素薄膜を削ることにより膜厚が精密にらせん状に変化した位相板が作製されている.31)また,同様の方法で窒化ケイ素膜の厚さをのこぎり状に変化させた位相変調型の回折格子も作製されており,回折波の強度を制御したらせん波の生成も報告されている.32)振幅変調を用いる方法では,フォーク型回折格子と呼ばれる特殊な透過型回折格子を用いる.図4 はフォーク型回折格子のSIM像である.この回折格子は厚さ1 ミクロン程度の白金箔から作製した.像の明るい部分には白金箔がなく電子線は素通りする.暗い部分には白金箔が存在し,電子線は透過できない.回折格子の中央付近にはスリット間の電子線遮断部が途中で分岐している.このような「刃状転位」状の回折格子によりらせん波が生成される理由は,以下のようにホログラフィーの原理で理解できる.ホログラフィーでは,物体波と参照波の干渉によりホログラムを作製し,ホログラムに参照波と同じ平面波を当ててその回折波として物体波を再生する.らせん波を生成するには,物体波としてらせん波,参照波として平面波を用意してホログラムを作製し,それに平面波を照射すればよい.図5 はコンピューター上で計算したらせん波と平面波の干渉パターン,すなわちホログラム,である.ここでは簡単のためらせん波の動径成分R(r)はr によらず一定であるとした.中央の干渉縞が途中で分岐しているのがわかる.この干渉縞を2 値化し,明暗に応じて開孔し回折格子としたものが図4 である.図6a ~ h は,図4 の回折格子を通過した電子の伝播過らせん波平面波位相板図3 位相板によるらせん波の生成.平面波をらせん位相板に入射することによりらせん波が生成される.(Production of a spiral wavefront by a phase platefrom a plane wave.)図4 FIBで作製したフォーク型回折格子のSIM像.(SIM image of the forked grating.)図5 ホログラフィーの原理に基づくらせん波の生成.(Production of a spiral wavefront on the basis of theprinciple of holography.)ホログラム作製(a)および再生(c)時の様子.トポロジカル数0(b),-1(d),+ 1(e)のホログラム.