ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

ページ
29/72

このページは 日本結晶学会誌Vol58No2 の電子ブックに掲載されている29ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 81軌道角運動量をもつ電子ビームにする.平面波の等位相面に垂直な直線Λを置き,その線を端とする半無限平面Pを考える.平面Pと各等位相面との交線に沿って各等位相面を切断する(図2b).次に平面Pの裏側と表側にある波面を,直線Λに沿って1枚分ずらしてつなげる.このようにして,らせん状の等位相面を作ることができる.このようにして作製した等位相面に沿って直線Λのまわりを1周回転すると,回転する前の位置と比べてz方向に波面1枚分だけずれた位置に並進することになる.図2の場合,作製したらせん状の波面は右巻き1重らせんとなる.波面のずれ方は,トポロジカル数(l またはトポロジカルチャージ,渦度)と呼ばれる指標で表される.このトポロジカル数lが前出の軌道角運動量l?に対応する.トポロジカル数l は整数であり,その符号および絶対値で,それぞれずれの向きおよびずれた面の枚数を表す.図2c の例はトポロジカル数1 のらせん波となる.図2 のらせん状波面の作製手順は,完全結晶にらせん転位を導入する手順とまったく同じである.このことから,らせん波は「らせん転位を含む進行波」と言える.トポロジカル数はバーガースベクトルに対応する.平面波かららせん波を作製する上述の過程には波面を半無限平面に沿ってずらすという不連続な変形が含まれている.すなわち,平面波とらせん波はトポロジー的に異なる.図2 の直線のに垂直な平面上でのらせん波の位相分布は,トポロジカル数がnの場合,Λのまわりの方位角に比例して1周して2nπだけ変化する.超伝導に見られる磁束量子,超流動に見られる量子渦などもらせん波と同様のトポロジー的特徴をもつが,これらとの関連についても大変興味深い.5.電子渦波の方程式上節で述べたらせん運動は自由空間を伝播する電子の運動である.中心力ポテンシャルがないにもかかわらず,ある中心軸のまわりをらせん運動することは一見不思議に思えるかもしれない.以下では,式(7)で表されるようならせん状の波面をもつ波が自由空間のシュレディンガー方程式の解として与えられることを示す.自由空間を伝播する電子の波動関数Ψは,以下のシュレディンガー方程式を満たす.∇2Ψ = EΨ (9)ここで,Eは電子のエネルギーである.この方程式は,円柱座標系(r,?,z)で以下のように表される.1 12222r r 2rr r zEΨ∂∂∂∂?? ??? ?+∂∂+∂∂ ???? ???=?Ψ (10)この方程式は変数分離法で解くことができ,その解は,Ψ(r,?, z) = R(r )Φ(?)Z (z) (11)の形で表すことができる.動径成分R(r)はベッセル関数と呼ばれる特殊関数となる.方位角成分Φ(?)はΦ(?) = Φ0eim? (12)となる.ここでΦ0は積分定数,mは任意の整数である.z成分Z(z)はz方向に伝播する平面波に等しく,Z (z) = Z0eikz (13)である.ここでZ0は積分定数,kは電子の波数である.Φ(?)とZ(z)の積はΦ(?)Z (z) = Φ Z e ( ) i m?+kz0 0 (14)となり,上述のらせん波を表す式となる.以上のように円柱座標系のシュレディンガー方程式の解としてらせん状の波面をもつ進行波が導出される.この解の動径分布関数であるベッセル関数は,r= 0 の位置に漸近的極大を有し,rが増大するにつれて振動しながら減衰するような関数であり,全空間にわたって振幅が一定である単純な平面波とはだいぶ様子が異なる.ΛP波面(等位相面)進行方向(a)(b)ΛP(c)図2 トポロジカルチャージl = 1のらせん状波面の形成.(Formation of a spiral wavefront with a topologicalcharge of l= 1.)平面波(a)を波面に垂直な半無限平面Pで切断し,平面Pの下側の波面を進行方向に1 波長分だけずらして波面をつなぎ合わせると,l = 1 のらせん状の波面が形成される.