ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

80 日本結晶学会誌 第58 巻 第2 号(2016)齋藤 晃,内田正哉呼ばれる)を利用した量子情報通信,ナノ加工などへの応用研究が進められている.25),26)光での渦波の発見に続いて,電子でも軌道角運動量をもつ進行波が生成された.内田と外村は,膜厚がらせん階段状に変化したグラファイト膜に電子平面波を入射し,電子線ホログラフィーを用いてらせん階段状のグラファイトを透過した電子波の波面がらせん状であることを見出した.3)厚さがらせん階段状に変化した試料はこれまでも透過電子顕微鏡で観察されていたはずで,電子らせん波はこれまでもたくさん生成されていたと言える.内田・外村の発見は,「らせん状の波面をもつ電子波が存在しうる」ことを広く認識させるきっかけとなったことと言えるだろう.その直後,「刃状転位」を含む回折格子(図4,6,7参照)に電子平面波を入射することにより,その回折波にらせん波が生成されることが確かめられた.8),27)その後,渦巻き状のゾーンプレートによるらせん波の生成も報告された.28),29)最近では,磁場がらせん状に配列したアンジュレーターにより軌道角運動量をもつ放射光X線が生成されている.30)またごく最近,軌道角運動量をもつ中性子線の生成も報告された.4)3.軌道角運動量をもつ進行波の波面運動量はもともと粒子的描像で定義された物理量である.量子力学において運動量は波動関数の勾配で与えられる.並進運動量は以下の演算子の固有値として与えられる.p = ?i?∇ (1)もし単純な平面波なら波動関数はΨ = Aeik?x (2)と表せ,運動量はpΨ = ?i?∇Ae ik?x = ?kΨ (3)となり,並進運動量の固有値は?kであることが確かめられる.同様に軌道角運動量は波動関数の方位角方向の勾配であり,以下の演算子の固有値として与えられる.L = ?i?∂∂?(4)波動関数にeil?のような方位角成分が含まれれば,軌道角運動量はLΨ = ?i?∂∂?eil? = l?Ψ (5)となり,軌道角運動量はl? となる.最も単純な進行波である平面波に軌道角運動量を付与することを考える.平面波の進行方向をz方向とし,円柱座標系で波動関数を表す.波数ベクトルの大きさをkとすると,平面波はΨ(r,?, z) = Aeikz (6)と表される.この平面波に方位角?に依存する位相項を付与する.Ψ(r,?, z) = Aeil?eikz (7)この波動関数に式(4)の軌道角運動量演算子を作用させれば,軌道角運動量がl?であることが確かめられる.この波動関数の等位相面(波面)は,l? + kz = const. (8)を満たす点(r,?,z)の集合であり,これはらせん面になる.図1 にl= 0,+1,+2,+3および-1の場合の等位相面を示す.このような波面をもつ波動関数が自由空間のシュレディンガー方程式を満足するかについては5 節で述べる.4.らせん状の波面をもつ波らせん波は,平面波に「らせん転位」を導入することにより作ることができる.平面波の等位相面は進行方向zに垂直な平面である.位相が2π だけずれた2 つの等位相平面は,波長の間隔だけ離れた平行平面となる.位相を議論する際,2πの整数倍の差は物理的に意味をなさないので,2nπだけずれた等位相面の集合を考える.この集合は波長の間隔で周期的に並ぶ平面の列になる( 図2a).以下では,この集合を「平面波の等位相面」と呼ぶこと図1 さまざまならせん波の波面.(Wavefronts of vortexbeams.)