ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 75金属内包フラーレンの構造決定アダマンチリデン(Ad)との反応において,La@C82とGd@C82との間に大きな反応性の違いは見られず,Gd@C8(2 Ad)を高選択的に得ることができた.良溶媒に二硫化炭素,貧溶媒にn- ヘキサンを用いて単結晶を作製しX線構造解析を行ったところ,La@C82と同様に内包Gd原子はC2軸上の六員環の近傍に位置することが明らかとなった(図2b).25)しかし,Ad付加により内包Gd原子の位置が移動した可能性を否定することはできない.そこで,化学修飾を施さずに結晶化させる方法を検討することとした.これまでにBalch,Olmsteadらはポルフィリンとフラーレンを組み合わせるとX線構造解析に適した良好な共結晶が得られやすいことを報告している.26)共結晶中ではフラーレンの回転は抑制されるため,構造解析も容易になると期待できる.そこで,Gd@C82とポルフィリンとの共結晶化法による単結晶の作製を試みた.フラーレンとの共結晶化に最も多く利用されているポルフィリンとしてはNi(OEP)(OEP= 2,3,7,8,12,13,17,18-octaethylporphyrin)が挙げられる.Ni(OEP)は,ポルフィリンπ 平面とのπ?π 相互作用に加え,8 個のエチル基との間にCH?π相互作用が効果的に働くことで,フラーレンとの共結晶を形成しやすいと考えられている.Gd@C82のベンゼン溶液を上層に,Ni (OEP)のクロロホルム溶液を下層にして静置したところ,良好な共結晶が得られた.このX線構造解析から,未修飾のGd@C82においてもGd原子はC2軸上の六員環側に位置していることが明らかになった(図2c).27)また,Gd@C82(Ad)の結晶構造との比較により,アダマンチリデン付加は内包されたGd原子の位置に大きな影響を与えないことが示された.これまでにわれわれは,La@C82に対してDiels-Alder反応28)やBingel反応29)などを用いてさまざまな誘導体を合成し,それらのX線結晶構造を明らかにしている.30)その結果,La@C82 の化学修飾において内包La原子の位置は,置換基や付加位置によらずほとんど変わらないことが示されている.ただし,これはすべての金属内包フラーレンに当てはまるわけではない.例えば,2つの金属原子がフラーレンケージ内で回転運動することが知られているM2@C80の場合では,化学修飾の種類に応じて金属原子の運動が変化し,特定の位置に局在化したり,二次元的な回転運動に変化したりすることを見出している.31)化学修飾により内包原子の位置を制御することで,新たな位置選択性が発現することも報告されている.以上のことから,金属内包フラーレンにおける内包金属の位置については慎重な議論が求められる.4.Sc2@C66の分子構造Sc2@C6632)は,IPRを満たさないフラーレン構造をもつ最初の例として2000年にSc3N@C6833)と同時に報告された.この報告では13C NMR測定と粉末X線回折データに基づき,Sc2@C66に対してC2v (4348)-C66ケージ***に2個のSc原子が2量体として内包された図3a の構造Aが提案された.32) これに対し小林と永瀬は2002年に理論計算を行い, 粉末法で求められた構造Aよりも,C2v (4059)-C66 に2個のSc原子が離れて内包された図3bの構造Bが95 kcal/molも安定であるとする結果を報告した.34)この理論計算の結果と粉末法で求められた構造*** フラーレン構造を対称性だけでは区別できない場合,群論記号に加えて数字を記す.この数字はFowler とManolopoulosが提唱したスパイラルアルゴリズムによって定められる.図2 (a)粉末X線回折データより導かれたGd@C82の分子構造,(b)Gd@C8(2 Ad)の結晶構造,(c)Gd@C82とNi (OEP)の共結晶の結晶構造.((a)The structure of Gd@C82 determined from the synchrotron radiation X-raypowder diffraction data(. b, c)ORTEP drawings of Gd@C8(2 Ad)and Gd@C82/N(i OEP)with thermal ellipsoids shownat the 50% probability level.)c:Reprinted with permission from Inorg. Chem. 51, 5270(2012). Copyright (2012)American Chemical Society.