ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 73日本結晶学会誌 58,73-78(2016)最近の研究から1.はじめに炭素の五員環と六員環から形成されるフラーレンは,中空の球状構造をもつ物質群である.フラーレンの内部空間に金属原子や金属クラスターが内包されたものは金属内包フラーレンと呼ばれる.金属内包フラーレンでは,内包種からフラーレンへ電子移動が起こるので,空のフラーレンとは異なる物性,機能,反応性が期待される.これまでにさまざまなフラーレンと内包種を組み合わせた金属内包フラーレンが合成されており,単独では不安定な新奇な金属クラスターを内包したフラーレンも発見されている.内包種からの電子移動数によってはフラーレン上に不対電子が生じるが,拡張したπ 電子系により安定化された中性ラジカルとして取り扱うことができる.金属内包フラーレンの特異な酸化還元電位や内包金属の特性を利用した太陽電池やトランジスタなど各種電子材料の創成や造影剤などの医療への応用も期待されている.これらの応用研究への展開を進めるうえでも,金属内包フラーレンの正確な分子構造の解明はきわめて重要である.1)五員環と六員環からなるフラーレンが閉じた球状構造をとるためには,オイラーの多面体定理に従い12 個の五員環が必要である.このとき五員環同士が隣接すると,局所的な歪みが生まれるばかりでなく,反芳香族性が生じる.このために,安定なフラーレンでは五員環は隣接しないという孤立五員環則(Isolated Pentagon Rule;IPR)が,ノーベル化学賞受賞者のH.W.Kroto博士らにより提唱された.2),3)実際に,これまでに単離された空のフラーレンはすべてIPRを満足している.金属内包フラーレン研究の黎明期においては,得られる試料の量が限られていたために,構造解析の手段は13CNMRや粉末X線回折などに限られていた.4)しかし最近では,金属内包フラーレンの大量合成・大量分離法の開発が進んで十分な量の試料が得られるようになり,単結晶X線構造解析による精密な分子構造が報告されるようになっている.金属内包フラーレンの特異な電子的特性や化学反応性はその分子構造に由来するため,フラーレンのケージ構造のみならず内包種の構造や位置を正確に解明することは重要である.ここでは実験5)と理論6)のインタープレイの重要性に焦点を当て,金属内包フラーレンの構造解析に関する最近の研究例を紹介する.2.La@C82の分子構造空のC82フラーレンにはIPRを満たす異性体が9種類あるが,実際に単離されているのはC2対称の異性体のみである.7)これは,9 種類のIPR異性体の中でC2-C82*が熱力学的に最も安定であるという理論計算の結果と一致する.8)代表的な金属内包フラーレンとしてC82 フラーレンに1個のLa原子が内包されたLa@C82**が知られ金属内包フラーレンの構造決定東京学芸大学教育学部自然科学群理科教室 鈴木光明東京学芸大学教育学部自然科学系分子化学分野 山田道夫,前田 優京都大学福井謙一記念研究センター 永瀬 茂(公財)国際科学振興財団, 東京学芸大学 赤阪 健Mitsuaki SUZUKI, Michio YAMADA, Yutaka MAEDA, Shigeru NAGASE and TakeshiAKASAKA: Structure Determination of Endohedral MetallofullerenesFor the structure determination of endohedral metallofullerenes(EMFs), X-ray crystallographicstudy is very powerful because it provides detailed information of the positions of encapsulatedspecies as well as the cage structures. We have reported a number of X-ray crystal structures of EMFsand their derivatives, which are in good agreement with those suggested by theoretical calculationsas well as NMR analyses. Herein we show the importance of interplay between experiments andtheoretical calculations for the structure determination of EMFs by taking up La@C82, Gd@C82, andSc2@C66 as the representative examples.* 炭素ケージは構造異性体があるため,必要に応じてケージの対称性を示す群論の記号を付与して区別する.** ここでは金属内包フラーレンをLa@C82のように表記する.@は内包を表し,1個のLa原子がC82ケージに内包していることを意味する.