ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

70 日本結晶学会誌 第58 巻 第2 号(2016)稲熊宜之(2)90° ドメイン境界は両方とも階段状になっているが,1 つのステップの長さはLi-rich 組成のほうがLi-poor 組成に比べて大きい(図10),(3)low-angle annular dark-field(LAADF)像から境界付近での歪みはLi-poor組成のほうが顕著である,(4)ドメイン間の角度は鶴井らの報告と同様にLi-rich組成では,89.8 ± 0.2° とほぼ直角であるのに対して,Li-poor組成では,88.9 ± 0.2°とわずかに傾いている,ことを挙げている.Li-rich組成では格子定数が,a???b???c とほぼ同じであるのに対して,Li-poor 組成ではa???b < c と差があり,Li-poor 組成では90° ドメイン境界での格子ミスマッチが大きくなる.このミスマッチが原因でドメインの大きさの違い(Li-poor 組成では境界を減らして,ミスマッチに伴う歪エネルギーを軽減するためにドメインサイズが大きい)やドメイン間角度の直角からのずれが生じたと結論づけている.また,LaをNdで置換したNd2/3-xLi3xTiO3では,TEMによりLLTOとは異なるドメイン構造が観測され,2 つの異なる解釈がある.Guitonら75)はチェスボード状とダイヤモンド状のドメイン構造を見出し,ダイヤモンド状の領域はLi に富む領域(Li-rich領域,Nd1/2Li1/2TiO3),境界領域はLi が少ない領域(Li-poor 領域,Nd2/3TiO3)であるという相分離構造を提案している.一方,Abakumovら76)は,TEM,放射光X線および中性子線回折,第一原理計算を駆使し,このドメイン構造は相分離によるものではなく,複雑なTiO6八面体のtiltのパターンに起因する不整合的に変調した三+二次元の超構造によって説明できると主張しており,いまだ決着を見ない.また,LLTOでも特異なドメイン構造が観測されている.大西ら77)は,Pulse Laser Deposition(PLD)法によりLLTO(x???0.11)のエピタキシャル薄膜の成膜に成功し,三石ら78)はPt上のエピタキシャル薄膜においてナスカの地上絵に似た面欠陥が現れ,そこではすべてLa-rich層になっていることを見出した.上述した各種のドメイン境界はイオン拡散に影響を与えるのだろうか.例えば,5.2で述べた二次元拡散が期待されるLLTO(x= 0.05)でもドメイン構造が見られ,90°ドメイン間を横断する長距離拡散は三次元的な拡散になると考えられる.したがって,LLTOのイオン拡散について議論する際,結晶構造とともにドメイン構造がもたらす影響も考える必要がある.三石ら78)はエピタキシャル薄膜の面欠陥がLa-rich層になっていることを見出すとともに,第一原理計算を援用し,La-rich層がイオン拡散を阻害しうることを提案した.その後,大西ら79)は,成膜条件を検討し高品質の薄膜作製を行い,イオン伝導度測定を行った結果,反位相境界は伝導性を阻害しないという結論を得ている.一方,森分ら72)は,HAADF-STEM法により90° ドメイン境界面においてはLa-rich層によってドメイン境界面が形成され,計算によりこの境界でのEaは非常に高いことを指摘している.以上,ドメイン構造およびその境界に関する研究について述べた.しかし,これまでドメイン構造の生成過程について調べた報告はなく,今後その理解が進むことが期待される.6.Pv型Liイオン伝導性酸化物におけるSOJT効果とイオン拡散-共有結合性の正体とは何かPv型Liイオン伝導性酸化物において,Liイオンは,Aサイト欠陥を介して拡散し,Pv型構造はイオン拡散に適した経路を提供している.しかし,硫化物系Li イオン伝導体(D ~ 9 × 10-8 cm2/s)と同等の拡散係数(D ~ 3× 10-8 cm2/s)を示す理由は何かという疑問に対する答えは出ていない.また,共有結合性の重要性が指摘されているがその正体については不明である.3において,Aサイト欠陥生成とSOJT効果は協調的に起こることを述べた.それでは,SOJT効果はイオン拡散と関係があるのだろうか.Liイオンが移動する際,LiイオンとBイオン間の静電反発が起こり,その反発は活性化障壁の原因となる.もし,静電反発を和らげるようにBイオンが変位すれば,活性化障壁は小さくなり,イオン拡散が容易になる.また,BN位置の酸素も変位すれば,イオン拡散図10 Li-poor 組成(a)およびLi-rich 組成(b)のLLTO試料のHAADF像(上)とそれに対応する[100]p方向に沿った90°ドメインの境界の原子配列を示す概念図(下).74)(HAADF(high-angle annular darkfield)images(upper)and the corresponding schematicdiagrams(lower)showing the edge-on atomicstructures of 90° domain boundaries along the [100]pdirection in the(a)Li-poor and(b)Li-rich LLTOsamples, respectively.)どちらの試料についても90°ドメインの境界は破線で示した短いステップからなる.(Royal Society of Chemistryより許可を得て転載)