ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 69ぺロブスカイト型Li イオン伝導性酸化物の最近の研究動向Elastic Band(NEB)法によりLi イオンの拡散経路を見積もった.その結果,Cattiが提案した経路と同様,図9 に示すようにBN位置から別のBN位置への拡散経路が見られ,それらの位置が安定なサイトである.そして,Aサイト内の位置が活性化状態である.その後さらにKimら,71)森分ら72)もLLTOのイオン拡散経路とそれに伴うエネルギー変化を計算し,Catti,中山らの計算結果と定性的には同様の結果を得ている.上記のすべてのLLTOに関する第一原理計算結果において,Liの安定位置は4つの酸素で囲まれたBN位置あるいはその近傍,最高エネルギー位置はBN位置ではなく,Aサイト内にある.一方,4.3で述べたように,実験的に求めたEaの比較からは不安定位置は4つの酸素で囲まれたBN位置にあると考えられる.上述した静電モデルに基づくポテンシャルエネルギー計算では,BNサイズが大きくなるにつれて,安定位置は,Aサイト内からBN位置に変化する.35b) LLTOのみが第一原理計算の結果のようになり,BNサイズがより小さい他の系では状況が異なるのか,あるいは他の系についても同様に当てはまるか,明らかにする必要がある.LLTO以外の化合物,特にBNサイズが小さい化合物に関する計算結果が待たれる.また,森分ら72)は計算においてLi イオンの位置によって局所構造が大きく変化すること,とりわけLi イオンが拡散する近くのTiO6八面体のtiltの変化が大きく,イオン移動を助長していることを指摘している.これらの計算結果は,上記で示した静的なBNサイズを考えるだけでは不十分で動的にも考える必要があることを示唆している.5.4 ドメイン構造とLi イオン拡散LLTOにおいて数~ 100 nm程度のサイズをもち,c 軸が90° をなす90° ドメイン構造の存在がTEMにより確認されている.45),46),56),65),73),74)このドメイン構造は,Laが不規則配列している高温から冷却し,Laが規則配列するときに生ずると考えられる.La量が少ない(Li-rich組成の)場合,10 nm程度のドメインサイズであるが,La量が多く(Li 量が少なく)なるにつれ,数十~ 100 nmと増大する.5.1で述べたようにこの小さな領域のドメイン構造の存在が電子線回折による空間群の決定を困難にしている.鶴井ら73)は,Li-poor組成のLa0.62Li0.16TiO3のドメイン境界において,ドメイン間の角度が89°とわずかに傾いていることを見出し,境界付近の歪みとの関係を指摘している.その後Gaoら74)は,Li-poor組成のLa0.62Li0.16TiO3とLi-rich組成のLa0.56Li0.33TiO3についてTEMによる観察を行い,両者のドメイン構造を比較している.両物質のドメイン境界は,ともに90°ドメイン境界がほとんどで,反位相境界がまれに観測される.両物質の違いとして,(1)ドメインの大きさは既報と同様に,Li-poor 組成のほうがLi-rich組成に比べて大きい,図9 Liの拡散経路(a)と経路中のエネルギー変化(b)7.(0)Diffusion path of Li and the variation of energy along the diffusionpath.)(日本セラミックス協会より許可を得て転載)図8 LiLa5(空孔)2 ( TiO3)8 組成の2個のLa,1個のLi,1個の空孔を含む(100)層におけるAサイト空孔を介したLiイオンの伝導経路.69b() One-dimensional[100] mobility pathway of Li across the A-type cavitycenters in the 2La+1Li+1vacancy(001)layer ofLiLa5 (vac)2 (TiO3)8.)Liと等価な空の位置をそれぞれ,灰色の球,小さい円で表した.(AmericanChemical Societyより許可を得て転載)