ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

68 日本結晶学会誌 第58 巻 第2 号(2016)稲熊宜之含まれ,周りの環境は単一でないため,平均的な構造を考えるだけでは不十分であることを示唆する.丸山ら61)は組成の異なるLLTOのMDシミュレーションを行い,Li-poor組成のLa0.62Li0.14TiO3ではLiイオンはLa-poor 層での二次元的拡散,Li-rich組成のLa0.56Li0.32TiO3では三次元的拡散が起こることを観測しており,構造から予想される描像と合致する.最近,Jayら62)はLa,Liの配列に関して実際の系を反映するように遺伝的アルゴリズムを取り入れたMDシミュレーションを行っており,Liイオンの平均二乗変位から見積ったイオン伝導度は実験値とよく合っている.また,尾原ら63)は,逆モンテカルロシミュレーションによりX線および中性子散乱データからイオンの分布を導出し,Li イオンはLa-rich 層にも多く存在するという従来とは異なる結論を得ている.森ら64)は,La0.53Li0.4TiO3急冷試料のX線および中性子線回折データを収集し,逆モンテカルロシミュレーションにより,三次元の局所構造を決定し,また,BVSの考えに基づきイオン拡散経路を予想した.その結果,Li イオンは4つの酸素に囲まれたBNとAサイトの中心からずれた領域に存在し,存在する3種類のBNのうち70%を占める1種類のBNを通る拡散が容易であることと報告している.また,TEMによりLaの配列の局所的な情報が得られている.Gaoら65)は,HAADF像から,LaはLa-poor 相においてある程度クラスター化していること,Laの少ない領域はLi の存在確率が高いことを指摘している.5.3 第一原理計算による電子構造,局所構造,イオン拡散経路および活性化状態の解明これまで主にイオンモデルに基づいて話を進めてきたが,ここ10年,電子論に基づく局所構造やイオン拡散の理解を目指し,第一原理計算によるLLTOの電子構造,Li の安定位置,拡散経路に関する検討が行われている.井上ら66)および小野ら67)は,それぞれ,DV-Xα 法および局所密度近似を用いたLinear Muffin Tin Orbital法により検討している.小野らは空孔のないLa0.75Li0.25TiO3組成の仮想的な系について計算を行い,Li の安定位置はLa-poor 層の空孔の中心位置から外れた位置にあること,4 つの酸素によって囲まれたBNから安定位置を経由し,別のBNを通って拡散すると述べている.また,井上らはLiと酸素間に化学結合の形成が見られ,イオン拡散との関係を指摘している.一方,大西68)はLi1sとO2p軌道間に結合は見られないが,LiイオンのBN通過時にバンド構造に変化が生じ,イオン拡散と電子構造は密接な関係があることを指摘している.中性子回折により平均的な結晶構造が明らかになり,それを初期構造とした第一原理計算が行われるようになってきた.Catti69)は,LLTOについてLaとLiの配列を変化させ第一原理計算を行い,(1)c軸に垂直な同じ層にLaとLiの両方が含まれる場合のみ,酸素八面体のa0a0c-の反位相tiltが再現される,(2)Li の安定位置は隣のAサイトの占有に応じて変化し,Aサイトの中心から外れた位置であることを報告しており,構造解析結果と一致する.また,Cattiは組成,La,Li,空孔の配列によって,拡散経路が変化すると考え,La0.625Li0.125TiO3 のLaとLiの配列を変化させて第一原理計算を行い,拡散経路とEaの検討を行った.その結果,図8 のようにLi 近傍にLaまたはLi が存在しない場合はBN位置から90° に曲がるように別のBN位置へ向かう経路を,Laが存在する場合はそれを避けるようにAサイトの中心を通る直線経路をとることを見出した.さらに,CattiはLi-Li間の相互作用が無視できないLi-rich組成のLa0.56Li0.31TiO3についても計算を行った.まずLaと空孔の配列を変化させ,ランダム配列より最近接のLa-La対が多いとき,すなわちLa同士が集まっているほうが安定であるという結果を得ている.これは,5.2で述べたGaoら65)のTEMによる結果と一致する.そして,その配列を基に拡散経路を調べたところ,La0.625Li0.125TiO3と同様であるが,拡散経路の両脇にLaが存在する一次元拡散の場合,Aサイトの中心が最もエネルギーが高く,BN付近が最も安定であり,Eaは0.31 eVと実験値の0.35 eVと近い.また,拡散する2 つのLi が近接する場合,全エネルギーを最小にするように互いにある程度の距離を保ち,相関をもった拡散が観測されている.第一原理計算では計算するセルサイズの拡張に伴い,計算時間が急速に増大するため,実際のLaとLiの配列を反映することが困難である.そこで中山ら70)は,クラスターサイズの拡張とモンテカルロシミュレーションを取り入れた第一原理計算により,La2/3TiO3 におけるLaと空孔の配列を予想した.その配列を使って,Nudged図7 La0.6Li0.2TiO3 における1,000 K でのMDシミュレーションによるLa,LiおよびOの軌跡.60() Trajectoryplots for La, Li, and O ions projected on{ 1 0 0}1 planefor La0.6Li0.2TiO3 at 1,000 K under ambient pressure inMD simulation.)