ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

ページ
15/72

このページは 日本結晶学会誌Vol58No2 の電子ブックに掲載されている15ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 67ぺロブスカイト型Li イオン伝導性酸化物の最近の研究動向> b > aとなり,格子定数の増加の原因としてc軸方向のLaの規則配列と同調したSOJT効果によるTiの変位の影響が最も大きく,b軸についての酸素八面体の反位相tiltが続く.一方,0.08 < x < 0.14での結晶構造についていまだ議論されている.報告のほとんどは,正方晶であるとし,正方晶格子としてこれまでap × ap×~2ap の格子,46),47) ~√2ap×~√2ap×~2apの格子45),55)の2つの格子が提案されている.後者は,正方晶の空間群P4/nbmをとり,a0a0c-のtilt様式をもつ構造モデルである.55)一方,菱面体,27),53)あるいは直方晶56),57)に属するという考えも提案されている.さらに晶系は不明だが,2ap ×2ap × 2apの格子をとるいう報告もある.58)直方晶に属するという考えの1 つは,0.08 < x < 0.14の組成範囲と同様の空間群(Cmmm),tilt様式a0b-c0 をとるというものである.57)後述するが,LLTOはドメイン構造をもつため,電子線回折像は異なるドメインからのパターンの重ね合わせになる.このため,電子線回折から消滅則を導出することが難しく,空間群がいまだ議論されている.奥村ら51)はXAFSにより局所構造を調べ,xの増加に伴うLa-O距離の減少,Tiに関係するデバイウォラー(DW)因子の増加,Ti-La距離の減少を見出し,これらはLa量の減少と規則化度の低下によって局所的にも不規則化が起こり,それに伴う局所歪と格子の不整合が原因だとしている.また,(3)に関連して,Laが不規則配列をとる高温状態で急冷するとLaの拡散が抑えられ,規則化度の低い試料が得られる.実際に図6 からわかるように高温から急冷した試料HT-LLTのほうが規則化度が小さくなっている.51)原田ら50),59)は,このLaの規則-不規則配列が温度によって可逆的に起こることを明らかにした.また,奥村ら51)は徐冷して得た試料と急冷試料を比較し,XAFSから求めたLaに関係するDW因子は急冷試料のほうが大きく,Laの配列が局所的にも不規則であることに起因するとしている.以上,組成,熱履歴によって,平均的にも局所的にもLaの規則配列が異なる物質が生じ,イオン伝導度に影響を与える.37),50),51),59)5.2 La の規則配列とパーコレーションイオン拡散経路 マクロからミクロへ5.1 では,x とともにLaの配列の規則化度が減少することを述べた.ここでは,Li 量が比較的少ない(Li-poor 組成)のLLTO(x= 0.05)とLi量が比較的多い(Li-rich組成)のLLTO(x= 0.12)を例として,その構造の違い,特にLaの規則配列の違いと構造から予想されるLi イオンの拡散の次元性について述べる.57)そして,MDシミュレーションやTEM観測から見出されるミクロな描像について議論する.Li-poor組成のLLTO(x= 0.05,La0.62Li0.16TiO3)において,La-rich層では占有率が0.95,La-poor層では0.30 であり,大きな差が見られる.また,粉末中性子線構造解析によって,La-poor層でのBNサイズは,La-rich層でのサイズよりも大きいことが明らかにされた.これらの結果は,La-poor層での二次元的拡散が支配的であることを示唆する.一方,Li-rich組成のLLTO(x=0.11,La0.55Li0.35TiO3)においては,La-rich 層では0.65,La-poor層では0.45 であり,占有率の差が減少するが,La-poor 層でのBNサイズは大きく,この層での拡散が優位であると考えられる.しかし,La-rich層の占有率はx= 0.05 試料に比べて小さく,c軸方向への拡散も可能であり,擬三次元的な拡散が起こると予想される.57)次にLiイオンの拡散経路のミクロな描像や局所構造について議論する.八島ら28)は,粉末中性子回折データを用いたMEM法による構造解析によってLLTO(x =0.05)のLiイオンの拡散経路の可視化に成功している.イオン拡散は,La-poor層で主に起こっており,BNからBNを結ぶような拡散経路をとる.また,静電的なモデルを用いて,エネルギーが低い経路を計算した場合も同様な結果が得られる.35)これらの結果は,平均構造から導かれたものである.そこで,イオン拡散のダイナミクスを明らかにするために,MDシミュレーションによる検討が行われてきた.勝又ら60)は,完全イオン性ポテンシャル二体モデルでは,イオン拡散が観測されないこと,一方,共有結合ポテンシャルとしてMorse項を加え,電荷を部分電荷とした部分イオン性ポテンシャル二体モデルを用いることによって,イオン拡散が観測されることを見出し,共有結合性の重要性を指摘している.図7 のMDの結果を見ると,Liイオンは,Laが隣のサイトにない場合,4 つの酸素に囲まれたBNからBNを結ぶように拡散するが,隣のサイトをLaが占有する場合には,クーロン反発のためLaを避けるように拡散しており,必ずしもBNからBNへの拡散だけではないことがわかる.この結果は,Aサイト格子には骨格イオン,Li イオン,空孔が図6 La2/3-xLi3xTiO3のLa-rich層およびLa-poor層におけるLaの占有率の組成依存性.51()Composition dependenciesof occupancy of La atom in La2/3-xLi3xTiO3.)LT-LLTおよびHT-LLTは,それぞれ徐冷して得た試料および高温から急冷した試料(. Royal Society of Chemistryより許可を得て転載)