ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 65ぺロブスカイト型Li イオン伝導性酸化物の最近の研究動向置をとると考えられる.Emeryら29)によるLa2/3-xLi3xTiO3に関する固体NMR実験によっても,異なる環境をもつLi イオンの存在が指摘されている.4.2 Pv型酸化物における空孔拡散機構とパーコレーション拡散5b),6)4.1 でLi イオンはAサイト付近に存在し,着目しているLiの周りのLiイオンとAイオンの位置によって異なることを述べた.Li イオンが隣の格子に移る拡散を考えると,Li イオンは隣の格子にLaイオンが存在すれば陽イオン間の静電反発のために隣の格子内には移動できない.単純PvにおいてAサイトだけを考えた格子(Aサイト副格子)は単純格子であるので,Li イオンの移動は単純格子におけるパーコレーション(浸透)30)に支配されることが予想される.Li と空孔が作るクラスターが系全体を浸透したとき,直流イオン伝導が観測され,イオン伝導度はLi イオン濃度とAサイト空孔濃度の和に依存する.LLTOおよびその固溶体,そしてSr0.5+xLi0.5-2xTi0.5Ta0.5O3系におけるイオン伝導度の組成依存性からPv型Li イオン伝導体における拡散機構は,基本的にはパーコレーションを考慮した空孔拡散機構に基づくことが示唆された.26),31)実際には,骨格イオン,Liイオン,空孔が三次元的かつ完全に不規則配列しているわけでなく,後述するように組成や熱履歴によってLaの規則配列などの構造は変化し,パーコレーション挙動は単純格子のパーコレーションよりも複雑になる.4.3 イオン拡散における活性化状態 実験から見た活性化状態-酸素八面体のtiltとLi イオン拡散Pv型Li イオン伝導体においてLiイオンが隣の格子に移る際,4つの酸素に囲まれた隙間(図2aの点線で囲まれた部分)を通る.もし隙間が狭い場合,この位置がイオン拡散のボトルネックbottleneck(以下BNと略す)となり,酸素の電子反発を受けるため活性化状態となる.2で述べた酸素八面体のtiltによってBNサイズが異なり,拡散の活性化エネルギー(以後Ea)に影響を与える.Ln2/3-xLi3xTiO3 (Ln=La,Pr,Nd,Sm)では,LnがLa,Pr,Nd,Smの順にイオン伝導におけるEaは増加し,イオン伝導度は減少する.10)単純に考えると,格子体積が小さくなり,それに伴い隙間のサイズも減少し,イオン伝導度の減少が見られたと考えられるが,実際には,LnがLaからPr,Ndへ変化するにつれて酸素八面体のtiltが増大し,それに伴い隙間のサイズが減少することがSkakleら32)の中性子回折実験により確認された.隙間の大きさを,Li イオンと酸素との結合の観点から見積もるために,4つの酸素位置で囲まれた中心位置での結合原子価(Bond Valence Sum,BVS)33)を用いる.Mazzaら34)は,BVSを用いてLLTOのLiイオンの拡散経路を予想している.BVSがそのイオンの価数よりも小さい場合は,結合距離が大きくunder-bond状態,一方,大きい場合は,結合距離が小さく,over-bond 状態であることを意味する.Li イオンのBVSが1より小さい場合は,その隙間がLi イオンにとって広すぎ,大きい場合は狭すぎることになる.Ln=La,Pr,Ndの場合,それぞれ1.20,1.41,1.44(隙間位置における平均値)となり,5b)いずれも1 より大きく,La,からPr,Ndへ変化するにつれて増加する.このことは4 つの酸素に囲まれた位置はLi イオンの拡散にとって狭いことを意味し,つまりこの隙間が拡散におけるBNであり,La,Pr,Ndへ変化するにつれてEaが大きくなることと調和的である.また,静水圧下でのイオン伝導度測定から求めた活性化体積は正の値を示し(圧力とともにイオン伝導度が減少し,イオン伝導のためには体積を広げる必要があることを意味する),Ln=La,Pr,Nd,Smの順に増加し,BNサイズの減少と対応する.35)また,MDシミュレーションにおいても,圧力とともにイオン伝導度の低下が見られる.60b)図5a にPv型Li イオン伝導性酸化物のPvの単純格子の体積の3 乗根(Pvパラメーター)ap とEaの関係を示す.5b),6),10),26),35)-37)Bイオンの種類によって大きく2 つのグループに分かれることがわかる.Tiのみを含むものは,それ以外のBイオンを含むものとは異なるグループに属する.中山ら38)は,BN位置でのLiイオンに対するクーロンポテンシャルは,Bサイトイオンの酸化数とともに増加し,その結果,Eaが増加すると述べ,Nb,Taなどの5価イオンを含む場合のEaの増加を説明している.筆者らは,最初,Ti-OとNb-O,Ta-O の共有結合性の違いによってLi-O 間の結合性が異なり同じ格子サイズでもEaの差異が見られると提案した37)が,近年になって酸素八面体のtiltによっても説明できることを見出した.39)これまで,イオン半径の大きいイオンの置換により格子定数が増加する一方,局所的な格子歪みをもたらし,イオン伝導度が減少するという報告がなされている.38),40),41)中山ら41)は,(Li0.1La0.3)1+xMxNb1-xO3 ( M= Zr,Ti)についてEXAFS測定を行い,M= Tiの場合はNb-O,La-O間距離の変化はないが,M= Zrの場合はLa-O間距離が減少し,Zrの近傍で格子歪が生じることを見出し,Zr 置換によるEaの増加を説明している.詳細な議論のためにはこのように局所構造を知ることが必要であるが,多くの物質について平均構造の情報のみしか得られない.そこで,この局所歪がtiltに起因すると仮定し,図2cのような紙面に垂直な軸に対する理想的なBX6八面体のtiltを考える.この図からPvパラメーターap,B-X間距離dB-X,B-X-B角度θB-X-Bの関係は次の式で表される.adB-Xp cos B-X-B deg.21802=? ? ( )? ??? ?θ (3)右辺の値はB-X-B角度の減少に伴い,すなわちtilt角φ(180-θB-X-B)/2(deg.))の増加に伴い,1より小さくなる.