ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No2

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概要

日本結晶学会誌Vol58No2

日本結晶学会誌 第58巻 第2号(2016) 63ぺロブスカイト型Li イオン伝導性酸化物の最近の研究動向化物は,室温で10-5~10-3 Scm-1と高いイオン伝導度を示す.先ほど述べたようにLLTOは,室温で10-3 Scm-1と高いイオン伝導度を示すが,Li10GeP2S12に比べ一桁低い.しかし,拡散係数を式(1)を使って見積もると,Li10GeP2S12 ではD ~ 9 × 10-8 cm2/s となり,LLTOの3 ×10-8 cm2/s と同等である.このことは,LLTOが酸化物でありながら高い拡散を示し,酸化物系でも高いイオン伝導性が得られる可能性を示唆する.Pv型Liイオン伝導性酸化物では,なぜ,高速拡散が達成されるのか.よりイオン伝導度の高い酸化物を得ることは可能か.本稿では,これらの問いに答えるヒントを得ることを目指し,構造や化学結合性と関連づけながら最近の研究動向について解説する.以前の解説5),6)と重複があるが容赦願いたい.Pv型Liイオン伝導体に関する研究は,1984 年Latieら7)がLn1/3-xLix (Nb1-xTix)O3(Ln=La,Nd)において,1987 年Belousら8)がLLTOにおいてLiイオン伝導性を示すことを報告したのが最初である.その後,しばらく注目されなかったが,LLTOが室温で10-3 Scm-1という高いイオン伝導度を示すことが報告されて以来,9)-11)再認識され,数多くの研究が行われるようになった.以下ではまず,Pv構造に触れ,Pv型Liイオン伝導性酸化物の構造的特徴について述べる.そして,構造,イオン伝導性,化学結合性の関係についてこれまでの実験的研究および計算科学手法を用いた研究を紹介しながら議論する.特に精力的に研究が行われているLLTOについて詳細に述べる.なお,本稿で示した結晶構造の描画にはVESTA12)を用いた.2.Pv 型構造-陰イオン八面体のtiltPv型化合物はABX3の一般式で表され,さまざまなイオンを収容できるため固溶体も含め膨大な数の化合物が報告されている.13)そして,構成イオンの違いにより,電気伝導性,誘電性,磁性,光学特性などさまざまな機能をもつことから,「機能性の宝庫」と呼ばれている.14)これらの多彩な機能性は,構成イオンとともにその構造によっても大きく影響を受ける.Pv型構造は,図2に示すようにBX6八面体が三次元的に頂点共有し,その隙間にAイオンが収容された構造だと捉えることができる.理想的な立方晶Pv(図2a)では,BX6八面体はB-X-B角度が180° になるように頂点を共有し,その隙間の中心にAイオンが存在する.しかし,このように理想的な構造をとることはまれで,ほとんどのPv化合物では,図2b のようにBX6八面体の回転(tilt)やAイオンの変位が見られる.一般に,式(2)から求められるPvの許容因子tが,理想的な立方晶Pvを仮定したときに示す値1より小さくなるとtiltが起こる.t r rr rA XB X=+2 ( + )(2)ここで,rA,rB,rXはそれぞれA,B,およびXイオンのイオン半径である.BX6八面体のtiltの様式によってPv構造を分類する考え方がGlazer15)によって体系化され,Woodward16)やHowardとStokes17)によって検討された.Aleksandrov18)もGlazerと同様にtiltによる分類をしているが,Glazerによる表記(Glazer notationと呼ぶ)a#b#c#がよく用いられるのでこちらについて説明する.Glazer notationのa,b,cはそれぞれPv基本格子の[100],[010],[001]方向を軸とするtiltを意味し,上付き文字の♯には,0(ゼロ),+(プラス)または-(マイナス)が記述される.0 はtiltがない,+は軸に沿った隣り合う八面体が同方向にtilt(同位相tilt,in-phase tilt),-は軸に沿った隣り合う八面体が反対方向にtilt(反位相tilt,anti-phase tilt)していることを示す.例えば,CaTiO3(図2b)は,格子定数がa ~√2ap,b ~ 2ap,c ~√2ap(apはPv基本格子を立方晶と仮定したときの格子定数)である直方晶の空間群Pnmaをとるが,基本格子はap =cp≠ bp,β> 90°となる単斜晶格子であり,a軸に対して反位相,b軸では同位相,c軸では反位相にtiltし,ap =cpゆえa軸とc軸の周りのtilt角度は同じであり,Glazernotationはa-b+a-となる.19)tiltによって図2b,c に示すようにB-X-B角度が180° から減少し,それに伴い物性が変化する.酸化物では,B-O-B角度によって酸素の2p軌道とBイオンの軌道との相互作用が変化し,電気伝導性,磁性などの物性に違いが表れる.3.PvにおけるAサイト欠陥と二次Jahn-Teller 効果Pv化合物は,多数のA,Bおよび陰イオンサイト欠陥を許容できる.Pv型Li イオン伝導性酸化物はすべてAサイト欠陥Pvであり,Li イオンの拡散経路がAサイト付近にあるため,Aサイト欠陥とイオン伝導性とは密接な関図2 ペロブスカイト型化合物ABX3の結晶構造(a),(b)およびBX6八面体のtilt(c).(Crystal structureof Perovskite-type compounds, ABX3.(a)Cubicperovskite,(b)Orthorhombic perovskite with √2 × 2×√2 unit cell,(c)Tilt of BX6 octahedra.)(a)は立方晶ぺロブスカイト,(b)は√2 × 2 ×√2 倍の単位格子をとる直方晶ペロブスカイト.