ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号(2015) 319標的類似体と結合したCRISPR-Cas系Cmr複合体の結晶構造質サブユニットについては1 分子ずつ含むことが判明した(図2).Cmr2-Cmr3サブユニット複合体はChiCmrΔ1複合体の基底部をなし,Cmr3がcrRNAの5’側に存在するタグ配列を塩基特異的に認識していた.一方,Cmr4-Cmr5-Cmr6サブユニット複合体はChiCmrΔ1複合体の上層部を形成しており,Cmr6がCmr4.3およびCmr5.2と相互作用するキャッピングタンパク質として機能していた.Cmr3,3 分子のCmr4およびCmr6は規則的に積み重なって1 つのヘリカルフィラメントを,また,Cmr2と2 分子のCmr5がもう1本のヘリカルフィラメントを形成していた.これら2 つのヘリカルフィラメントの間にはらせん状の溝が形成され,crRNAのガイド配列と標的アナログからなるヘテロ2 重鎖はこの溝に沿って配置されていた(図2).5.crRNA のガイド鎖と標的アナログからなる2 本鎖の構造crRNAのガイド配列は3 分子のCmr4およびCmr6と相互作用していた.RNA recognition motif (RRM)フォールドを有するCmr4の構造は“右手”の形に類似しており,palm,fingerそしてthumb領域に分割することができる(図3a).crRNAのガイド配列と標的アナログは2 本鎖を形成していたが,核酸の一般的な2 重らせん構造とは異なり,ほどけたリボン状の形をしていた(図3b).これは,Cmr4のthumb領域が,6塩基対ごとに2本鎖の間に入り込み,塩基対合の形成を周期的に阻害していることに起因する(図3c).ChiCmrΔ1複合体は3分子のCmr4を含んでいるため,ガイド配列と標的の2本鎖は3カ所で塩基対合の形成が阻害され,それらの塩基部分がフリップアウトしていた.その結果,crRNAの5’ 側から数えて14,20,26番目(標的アナログの26,20,14番目)のヌクレオチドの構造が大きく歪んでいることが判明した.6.Cmr 複合体による標的RNAの周期的な切断これまでの実験から,Cmr複合体は標的RNAを複数カ所で切断することが指摘されていた.11),14),15)そこで,ヌクレオチドの形が大きく歪んでいた標的側の14,20,26番目の3’側リン酸結合をCmr複合体が切断するのではないかと仮説を立てた.これまでに知られている多くのRNA分解酵素が触媒するRNA加水分解反応において,リボースの2’-OH基が重要な役割を担うことが指摘されている.そこで,標的RNAのこれら3 カ所のリボー図2 標的アナログと結合したChiCmrΔ1複合体の結晶構造.(Crystal structure of the ChiCmrΔ1 bound to thetarget analog.)図3 crRNAと標的アナログからなるヘテロ2重鎖の構造.(Structure of the crRNA-target analog duplex.)(a)Cmr4の構造.(b)crRNAのガイド領域と標的アナログが形成する2本鎖の構造.(c)Cmr4のthumb領域との相互作用によって引き起こされる塩基対合の周期的な開裂.図4 Cmr複合体で保存された触媒アスパラギン酸残基.(Catalytic aspartate residue conservedin the Cmr complex.)(a)切断されるリン酸結合の近傍にCmr4のAsp31が周期的に配置されている.(b)Cmr4ファミリータンパク質のアミノ酸配列アライメント.