ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号(2015) 317日本結晶学会誌 57,317-323(2015)最近の研究から1.はじめにCRISPR-Casシステムは,哺乳類をはじめさまざまな生物種におけるゲノム編集ツールとして盛んに利用されており,生物の設計図を書き換えることのできる画期的な技術として大きな注目を集めている.自然界では,CRISPR-Casシステムは原核生物における獲得免疫系として機能している.1),2)原核生物のゲノムには,CRISPR(Clustered regularly interspaced short palindromic repeats)と呼ばれる遺伝子座が存在する.この遺伝子座にはウイルスやプラスミドなどの外来核酸に由来する多様な配列(スペーサー)が含まれており,それぞれのスペーサー配列はリピートと呼ばれる固有の塩基配列によって隔てられている(図1a).これまでに遭遇したことのないウイルスに初めて感染すると,原核生物はウイルス核酸の一部を新たなスペーサーとしてCRISPR遺伝子座に組み込み,ウイルスの感染履歴を自身のゲノムに記録する(図1b).その後,同じウイルスに再感染すると,CRISPR遺伝子座からcrRNA(CRISPR RNA)前駆体が合成される.crRNA前駆体はリピート配列に由来する部分でプロセシングされ,スペーサーに由来する配列を1 つずつ含んだcrRNAができあがる.CRISPR遺伝子座の近傍にはCas(CRISPR-associated)遺伝子が存在し,翻訳合成されたCasタンパク質とcrRNAが会合してエフェクター複合体を形成する.crRNAはウイルス核酸と相補的な配列をもつため,この配列相補性を利用してエフェクター複合体がウイルス核酸を特異的に認識し,そのヌクレアーゼ活性により外来核酸を分解して遺伝子の発現を抑制する(図1b).このように,原核生物は多様な配列をもったcrRNAライブラリーを利用して,さまざまな外来核酸の侵入に備えている.エフェクター複合体は,Casタンパク質の種類により3つの型(I,II,III)に分類される.I型とII型エフェクター複合体がDNAを標的とするのに対して,3),4)III 型エフェクター複合体はRNAを切断する.5),6)前述のゲノム標的類似体と結合したCRISPR-Cas系Cmr複合体の結晶構造産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門 沼田倫征,大澤拓生Tomoyuki NUMATA and Takuo OSAWA: Crystal Structure of the CRISPR-Cas RNASilencing Cmr Complex Bound to a Target AnalogCRISPR-Cas constitutes a prokaryotic adaptive immune system against invading geneticelements. The crRNA and Cas protein(s)form effector complex that degrades invading nucleic acidcomplementary to the crRNA guide. The type III-B Cmr effector complex comprises six Cas proteinsand a crRNA, and degrades RNA target. The crystal structure of the Cmr complex bound to a targetanalog was determined. The complex recognizes the crRNA 5’-tag and deforms the guide-targetduplex at 6-nt intervals. The structure reveals the periodic RNA cleavage mechanism by the Cmrcomplex, and provides insights into the evolution of the type I and III effector complexes.図1 CRISPR-Casシステムの概要.(Overview of the CRISPRCassystem.)(a)CRISPR遺伝子座におけるリピートとスペーサーの繰り返し構造.(b)侵入してきた外来核酸を記憶して,それらを特異的に分解するしくみ.