ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

352 日本結晶学会誌 第57 巻 第6 号(2015)クリスタリット出芽酵母と分裂酵母Saccharomyces Cerevisiae andSchizosaccharomyces Pombe酵母は最も単純な真核生物であり,増殖の早さ,病原性がないこと,外部DNAを効率よく形質転換できること,相同組み換え効率がよいことなど,実験室での操作の簡便性という観点から,真核細胞のモデル生物として広く使用されている.出芽酵母と分裂酵母とでは分裂の様式に大きな違いがみられ,出芽酵母は出芽(細胞の一端から芽が出て,それが成長し,母細胞から離れて娘細胞となる)により増えるのに対し,分裂酵母は動物細胞と同じように核が2 つに分裂した後,細胞の中央に隔壁を形成して分かれることで増殖する.進化的には大きくかけ離れており,分裂酵母は出芽酵母とは3 ~ 4 億年以上前に分岐したと考えられており,この違いは分裂酵母と動物との違いに匹敵する.これら酵母に含まれるタンパク質のアミノ酸配列のヒトとの類似度は分裂酵母のほうが高い.そのため,出芽酵母よりも分裂酵母のほうがヒトに近いモデル生物とされることもある.((公財)微生物化学研究会 微生物化学研究所 鈴木浩典)アミロイドペプチドAmyloid Peptidesアミロイドペプチドとは,多数の単量体が固有の繰り返し構造によって多量化し,不溶性の繊維状凝集を形成するペプチド類である(同様の性質をもつタンパク質も存在する).この不溶性の繊維状凝集は,生体にとって有害な場合が多く,神経疾患の原因と目されている例が複数ある.アルツハイマー型認知症(AD)の原因因子と考えられているアミロイドβ(Aβ)ペプチドは,まさにアミロイドペプチドの一種であり,AD患者の脳内で観察される老人斑の主成分として同定された.Aβ ペプチドの実体は,エンドソーム内で前駆体タンパク質(Amyloidprecursor protein:APP)が酵素(β セクレターゼ・γ セクレターゼ)による切断を受けて産生される40-42残基のペプチドで,単量体間で形成する特異的なβ シートに対して直角方向に伸長する繊維状凝集体を形成する.この凝集体がそれだけで神経毒性を示すという報告もあるが,凝集体形成からAD発症に至るメカニズムには不明な点も多い. (大阪大学蛋白質研究所 北郷 悠)環境制御型透過電子顕微鏡法Environmental Transmission ElectronMicroscopy気体あるいは液体中の試料を透過型電子顕微鏡で観察する方法を環境制御型透過電子顕微鏡法と言う.気体・液体中の試料を高分解能で観察するには,気体・液体分子による電子散乱の影響を抑える必要があるため,気体・液体を試料近傍のきわめて薄い領域に閉じ込めなければならない.その手法により,差動排気型と隔膜型に分けられる.差動排気型では,電子線経路に複数組のアパチャーを組み込み,アパチャーで区切られた空間を排気する.隔膜型では,試料ホルダーの試料セット部上下に電子線が透過可能な薄い膜を貼り,その間に気体・液体を流す.電子回折や電子エネルギー損失分光など,通常の透過型電子顕微鏡で可能なことは,環境制御型透過電子顕微鏡でもほとんど可能である.近年では,球面収差補正子を組み込み空間分解能を向上させた収差補正環境制御型透過電子顕微鏡も開発されている.環境制御型透過電子顕微鏡法は触媒科学,結晶成長,生物学など,広範な分野に応用されている.(大阪大学産業科学研究所産業科学ナノテクノロジーセンター 吉田秀人)DFT計算DFT Simulation分子系の全電子的エネルギーの99%以上は,平均場近似であるHartree-Fock(HF)理論の枠組みで記述される.HF理論では取り込まれない残り1 %程度のエネルギーは,電子相関と呼ばれ,平均場では記述されない多体効果に起因する.結合乖離エネルギーなどは,この電子相関エネルギーと同じオーダーである.そのため,分子の化学的性質の定量的な計算には電子相関効果の取り込みが必須となる.一般に,電子相関の取り込みには,HF方程式よりも複雑な多体方程式を解く必要があり,HF法と比べて演算量は劇的に増大する.密度汎関数理論(density functional theory:DFT)は,HF方程式に類似した平均場様の方程式の中に,熱力学量などの実験値を精度良く再現するように決定されたパラメータを導入し,HF法と同等の計算量で電子相関効果を取り込む計算手法である.また,エネルギーの核座標に関する二次微分を計算することで,赤外やラマンスペクトルを再現することができる.1)1) F. Neese: WIREs Comput. Mol. Sci. 2, 73(2012).(マックスプランク化学エネルギー変換研究所 緒方英明)