ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号(2015) 349ヒドロゲナーゼの超高分解能X線結晶構造解析(>640 cm-1)に微小なNRVSシグナルを観測することに成功した.このシグナルはH2またはD2で還元した試料のデータを比較することにより明確に確認できた.これらのスペクトルとDFTによるスペクトル計算を比較することによって,次に述べるようにFe 配位子の詳細な振動状態を得ることができた.DFT計算では,さまざまな[NiFe]活性中心モデルを作製し,それらを構造最適化したもの(Ni原子の高スピン状態と低スピン状態をそれぞれ作製した)を用いてNRVSスペクトルを計算した.これらのモデルのうち,Ni原子が低スピン状態でH-ブリッジ配位子とシステイン残基のS原子にプロトンが配位しているモデルが最もよくNRVSスペクトルを再現できた.このモデルはX線構造解析で得られた結果とほぼ一致した.図6 に示すように,NRVSシグナル(675 cm-1)に対応する振動モード解析の結果,このシグナルはNi-H--Fe のWag モードに由来することがわかった.6.おわりに超高分解能X線結晶構造解析と核共鳴振動分光法により,[NiFe]ヒドロゲナーゼのNi-R型の活性中心の詳細な立体構造と振動状態を明らかにすることができた.今回構造解析された[ NiFe]ヒドロゲナーゼのNi-R型の[NiFe]活性部位では,ヒドリドイオンが第3配位子としてFe原子とNi原子をブリッジし,Niに配位しているCys546のS原子がプロトン化されていたが,この結果はこれまでに報告されていた理論(DFT)計算の結果とよく合致した.またNRVS法により[NiFe]活性中心におけるFe原子の振動モード(特にNi-H--Fe のWagモード)が初めて明らかとなった.謝 辞本研究は西川幸志博士研究員(現兵庫県立大学大学院生命理学研究科 助教),Wolfgang Lubitz 教授(MPI CEC),また,NRVS実験はStephen Cramer教授(UC Davis)らとの共同研究により達成できた.また樋口芳樹教授(兵庫県立大学大学院生命理学研究科)にはヒドロゲナーゼ研究において長年にわたり助言をいただいた.この場を借りて関係者の皆様に感謝の意を表します.文 献1) W. Lubitz, H. Ogata, O. Rudiger and E. Reijerse: Chem. Rev. 114,4081( 2014).2) H. Ogata, W. Lubitz and Y. Higuchi: Dalton Trans. 7577( 2009).3) Y. Higuchi, T. Yagi and N. Yasuoka: Structure 5, 1671( 1997).4) A. Volbeda, et al: Nature 373, 580( 1995).5) Y. Shomura, K. S. Yoon, H. Nishihara and Y. Higuchi: Nature 479,253( 2011).6) H. Ogata, et al: Structure 13, 1635( 2005).7) Y. Higuchi, H. Ogata, K. Miki, N. Yasuoka and T. Yagi: Structure 7,549( 1999).8) 樋口芳樹:日本結晶学会誌 43, 227( 2001).9) M. Brecht, et al: J. Am. Chem. Soc. 125, 13075( 2003).10) H. Ogata, K. Nishikawa and W. Lubitz: Nature 520, 571( 2015).11) H. Ogata, et al: Nat. Commun. 6( 7890) doi: 10.1038/ncomms8890(2015).12) P. D. Adams, et al: Acta Cryst. D66, 213( 2010).13) P. A. Karplus and K. Diederichs: Science 336, 1030( 2012).14) J. Gruene, et al: J. Appl. Cryst. 47, 462( 2014).15) P. V. Afonine, et al: Acta Cryst. D60, 260( 2004).16) E. M. Burger, S. LA Andrade and O. Einsle: Curr. Opin. Struct. Biol.35, 32( 2015).17) T. Kramer, et al: ChemBioChem 14, 1898( 2013).18) 太田雄大, 瀬戸 誠:日本結晶学会誌 56, 329( 2014).19) S. D. Wong, et al: Nature 499, 320( 2013).20) A. D. Scott, et al: J. Am. Chem. Soc. 136, 15942( 2014).21) Y. Guo, et al: Inorg. Chem. 47, 3969( 2008).プロフィール緒方英明 Hideaki OGATAマックスプランク化学エネルギー変換研究所Max Planck Institute for Chemical Energy ConversionStiftstrasse 34-36, D45470 Mulheim an der Ruhr,Germanye-mail: hideaki.ogata@cec.mpg.de最終学歴:京都大学大学院理学研究科,博士課程専門分野:タンパク質の結晶構造解析現在の研究テーマ:金属タンパク質の構造解析図6 (A)Ni-R型[NiFe]ヒドロゲナーゼのNRVSスペクトル.(NRVS spectra and DFT calculated normal mode.)実線はH2で還元した試料,点線はD2で還元した試料のスペクトルである.(B)DFT計算による675 cm-1に対応する振動モード解析.矢印は振動方向を表す.