ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

346 日本結晶学会誌 第57 巻 第6 号(2015)緒方英明で保存した.2.2 回折データ測定回折データ測定は放射光施設BESSY Ⅱ(ベルリン)のビームラインBL14.2を用いた.X線ビームサイズは約0.1 × 0.1 mmでX線の輝度は約1012 photon s-1である. 検出器はRayonix225を用いた.X線の波長は最大輝度となる0.91841 Aを選択した.結晶( 約0.2 × 0.2 ×2.0 mm)をクライオループ(0.4 mm)に載せ100 K で測定した.凍結した結晶化母液やクライオループからのバックグラウンドノイズを低減するため,クライオループからはみ出した部分の結晶にX線を照射してデータ測定を行った.まず最初に1 つの結晶から低分解能側の4 データセット(1.8 A程度まで)を収集した.これらはそれぞれ振動角100 ~ 125 度ごとにX線の照射位置をずらした.これは,水素原子による回折の情報は低角側の回折点におもに反映されるため,データの冗長度を上げることよってこれらの回折点の強度を精確に決定するためである.例えば,0.89 A分解能データの低角側52.9 ~ 3.98 A までの観測した反射数は221201,そのユニーク反射数は13605であり冗長度は16.3である.1.06 A分解能データでは49.2 ~ 4.74 Aまでの観測反射数は48517,ユニーク反射数は7606 であり冗長度は6.4 である.冗長度が高いほど水素原子の電子密度が見えやすいようである.X線による結晶の損傷を最小限に抑えるために,低分解能側の測定時のみ減衰器を用いた.その後,高分解能側データを収集した.その際,約30 度の振動角ごとに結晶を平行移動しデータを測定した.これらの回折データをXDSで指数付け・積分したのち,XSCALEですべてのデータセットをスケーリングした.最終的に分解能0.89 Aのデータを収集できた.Karplusら13)によるとCC1/2が最高分解能側で約0.1まで有為なデータとして精密化するべきと提案されているが,現在まで分解能を決める一義的な基準はない.本研究では,CC1/2の高角側の値が0.5を超えたところでデータの完全性が非常に低くなったので分解能を0.89 Aまでとした.金属原子(NiやFe)の異常分散効果は今回用いたX線波長域では非常に小さいが,Friedel対の反射は独立した反射として扱った.また,異なる分解能による電子密度(特に水素原子の電子密度)の見え方を検討するため,別の結晶を用いて分解能1.06 Aのデータを収集した.2.3 構造精密化初期位相決定はPHESERを用いモデル分子として[NiFe]ヒドロゲナーゼの構造(PDB 1WUI)6)を選択し分子置換を行った.構造精密化にはプログラムPHENIXを用いた.12)アミノ酸の水素原子はライディングモデルとして扱った.1.5 A分解能までは等方性温度因子の精密化を行い,1.3 A分解能以上の精密化では異方性温度因子を導入し精密化を進めた.この段階で金属原子と硫黄原子の異常分散効果も含めて精密化した.金属原子はFe(Ⅱ),Ni(Ⅱ),Mg(Ⅱ)の散乱因子を使って計算した.1 Aを超える分解能の精密化の場合,散乱因子はPHENIXのライブラリ中にあるWt1995モデルを用いた.精密化最終段階では,マルチコンフォーマーや水素原子の配向などをチェックした.水分子はFo-Fcオミットマップ(σ = 2.0)上で水素原子が見えている場合,その水素をモデルに組み込んで精密化した.最終的に,結晶学的信頼度因子R値,RFree値はそれぞれ9.6/10.6(0.89 Aのデータ)と11.0/13.2(1.06 A のデータ)に収束した.PHENIXには超高分解能データの精密化用にIAS法(Interatomic Scatters)という電子密度図の改良方法がオプションとしてあるが,本研究のデータでは分解能が不足しているのか,この方法では結合電子に対する擬似散乱モデルが精密化できなかった.精密化を終えた座標データを使って,プログラムSHELXLでLeast-Square計算を行い原子間結合距離の誤差を見積もった.[NiFe]活性中心は球状分子の中心部分に位置しているので,温度因子は周辺の原子と比べて有意に低い値が得られ,Esd(Estimated standard deviation)の値も小さくなった(表2).3.高精度の構造解析[NiFe]活性中心のFe原子に配位しているCOとCN-配位子は電子数が等しいため電子密度図上からは区別が難しい.実際,Fo-Fcオミットマップを計算し,炭素,酸素,窒素原子の平均電子密度と温度因子の相関を見ると,アミノ酸の炭素,酸素,窒素原子は温度因子が低い場合(約10 A2),それぞれ区別できた(各原子の温度因子を横軸に,平均電子密度を縦軸にとり分布を調べることでわかる).しかしCOとCN-配位子の酸素と窒素原子は区別できなかった.そこで,これらの配位子のFe原子との結合距離を比べたところ,鉄-炭素間の結合距離はFe-COは1.75 A,Fe-CN-は1.88 A または1.91 Aで有為な違いがあり,これら2 原子配位子を明確に区別する表2 活性中心の原子間結合距離と温度因子(B).(Bonddistances of the[ NiFe] active site.)Bondlength(A) Esd(A) B(A2) B(A2)Ni-Fe 2.5734 0.0022 Ni: 4.55 Fe: 4.16Fe-CO 1.7529 0.0072 C: 4.49Fe-CN1 1.8776 0.0071 C: 4.40Fe-CN2 1.9100 0.0074 C: 4.89Ni-SC81 2.2379 0.0026 S: 4.43Ni-SC84 2.2124 0.0026 S: 4.26Ni-SC546 2.1797 0.0028 S: 7.03Ni-SC549 2.5391 0.0026 S: 4.72Fe-SC84 2.2595 0.0029Fe-SC549 2.3142 0.0028