ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号（2015） 345ヒドロゲナーゼの超高分解能X線結晶構造解析子の振動状態を観測した．NRVSはNuclear inelasticscattering（NIS），Nuclear inelastic absorption（NIA），またはNuclear resonant inelastic X-ray scattering（NRIXS）とも呼ばれる．さらに，モデル化合物のNRVSスペクトルや密度汎関数理論（DFT：Density Functional Theory）計算などの結果を比較することによって，［NiFe］活性中心におけるNi-H－-Fe の振動状態を見出すことができた．11）本稿では，放射光を用いた高分解能X線結晶構造解析と核共鳴振動分光法によって明らかとなった［NiFe］活性中心の詳細な構造について紹介する．2．高分解能X 線結晶構造解析2.1　精製・結晶化標準型［NiFe］ヒドロゲナーゼは酸素雰囲気下で容易に不活性化される．空気中で精製した場合，精製サンプルは不活性型であるいくつかの酸化状態の混合物である．またこの場合，［NiFe］活性中心が酸素原子種で修飾されている結晶構造がいくつか報告されているが詳細は不明である．酸素に触れないように培養・精製すれば，これらの酸素原子種による修飾を防ぐことができると考え，本研究では菌体培養から精製標品の結晶化までの操作をすべて嫌気条件下で行った．偏性嫌気性細菌（Desulfovibrio vulgaris Miyazaki F）の培養は50 Lの培養装置を用い，常に窒素ガスを充填することで嫌気条件（酸素濃度0％）を満たした．菌体破砕から精製・結晶化までの段階は嫌気チャンバー内で行った．結晶化サンプルの酸化還元状態はFTIRスペクトルを測定し，結晶化前後の酸化状態を確認した．結晶化に用いた沈殿剤2-メチルペンタン-2,4-ジオール（MPD）は，終濃度33％で抗凍結剤として十分に機能した．嫌気チャンバー内で結晶を液体窒素で凍結し，回折実験ま図1 （A）［NiFe］ヒドロゲナーゼの全体構造．（B）ヒドロゲナーゼの反応機構．（Structure and reactionmechanism of［ NiFe］ hydrogenase.［）NiFe］活性中心は酸化型（不活性型）から水素によって活性化されると触媒サイクル（Ni-SIa，Ni-CまたはNi-R）に移行する．Ni-R型が最も還元された状態である．表1 結晶構造解析の統計値．（Data collection andrefinement statistics.）データ名Ni-RUH Ni-RHPDB ID 4U9H 4U9IData collectionWavelength（A） 0.91841 0.91841Space group P212121 P212121Unit-cell parametersa, b, c（A）66.53,97.95,125.8563.85,99.69,122.19Resolution（A） 52.9-0.89（0.91-0.89）49.2-1.06（1.09-1.06）No. of observed reflections 9519061 1759243No. of unique reflections 1167454 648452Rmerge 0.069（0.940） 0.040（0.646）Completeness（％） 95.8（84.4） 94.8（78.1）＜ I/σ（I ）＞ 16.5（1.1） 12.0（1.3）Redundancy 8.2（2.8） 2.7（2.0）CC1/（2 ％） 99.9（50.0） 99.9（53.4）Wilson B factor （A2） 7.6 8.6RefinementResolution 37.6-0.89 49.2-1.06R/Rfre（e ％） 9.6/10.6 11.0/13.2No. of redisues 798 798No. of solvent molecules 922 786r.m.s.d. bond lengths（A） 0.014 0.014r.m.s.d. bond angles （°） 1.658 1.511Average B（A2） 12.3 13.5Protein 10.1 11.3Solvent 23.1 24.9Ligands 5.1 6.7Ramachandran plot statistics （％）Preferred regions 97.5 97.6Outlier regions 0.0 0.0