ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号(2015) 341白金ナノ粒子の酸化還元過程の収差補正環境制御型透過電子顕微鏡法による研究酸化物は形成していない.次に,酸素圧力はそのままに,電子線の電流密度を4 A/cm2に上げて同一の白金ナノ粒子を観察し続けた.すると,電流密度を4 A/cm2に上げて21 秒後には(111)面上に原子コラム間隔が0.27 nmの層が形成した(図4c).すなわち白金酸化物が白金ナノ粒子表面に形成した.電流密度を4 A/cm2 に上げて99 秒後には,(1 1 1)面上にも明瞭な白金酸化物が観察された.(200)面上にも不明瞭ではあるが新たな層が形成しており,白金酸化物の形成が示唆される.この観察結果は,白金ナノ粒子の表面が酸化するには酸素と,ある電流密度以上の電子線の照射がともに必要であることを示している.白金ナノ粒子表面における白金酸化物の形成に電子線照射が必要であることを,次の実験でも確認した.まず,真空中で2 つの白金ナノ粒子が酸化していないことを確認した(図5a,d).その後,ETEM内の酸素圧力を100 Pa にして,先ほど真空中で観察した白金ナノ粒子のうち1つだけを観察した.その結果,表面が酸化した白金ナノ粒子が観察された(図5b).真空中で観察したもう1 つの白金ナノ粒子には酸素中でまったく電子線を照射しなかった.その後,ETEM内の酸素の圧力を0.5 Paまで下げて,白金ナノ粒子を2つとも観察した.酸素圧力0.5 Paというのは,図1で示した,酸素中においてETEM観察中に白金ナノ粒子表面に安定な酸化物が形成する酸素圧力である1.3 Pa 以下である.酸素100 Pa中でETEM観察し表面が酸化した白金ナノ粒子は,酸素圧力0.5 Pa 中においてもその表面に白金酸化物が確認できた(図5c).酸素100 Pa中で白金ナノ粒子表面全体に形成した白金酸化物は酸素圧力0.5 Pa中でも安定に存在する.一方,酸素100 Pa 中でETEM観察しなかった白金ナノ粒子は,酸素0.5 Pa 中で表面に酸化物は存在しなかった(図5e).この観察結果は,白金ナノ粒子表面の酸化には,ある圧力以上の酸素と,電子線照射がともに必要であることを示している.次に,白金ナノ粒子表面の白金酸化物の還元に電子線照射が及ぼす影響を調べた.図3において,表面白金酸化物がCOの導入によって還元することを述べたが,図6 に示すように,COを導入しなくても,酸素を排気し真空中で観察すると,酸素中で形成した表面白金酸化物は還元された.酸素を排気しただけで還元したのか,それとも真空中で電子線を照射したことで還元したのかは,この観察結果だけでは判別できない.そこで次の実験を行った.まず,酸素100 Pa 中で白金ナノ粒子を電流密度4 A/cm2で観察し,表面に白金酸化物を形成させた(図7a).次に,酸素を排気し真空中で3時間放置した.図4 白金ナノ粒子の酸化過程に電子線照射が及ぼす影響.(The effect of electron irradiation on the oxidationof Pt nanoparticles.)(a)真空中の白金ナノ粒子.(b)低電流密度(0.1 A/cm2)で観察した酸素中の白金ナノ粒子.(c),(d)電流密度を4 A/cm2に上げて観察した酸素中の白金ナノ粒子.電流密度を上げてからの経過時間を像の右上に記す.Reproducedfrom Ref. 14 with permission from The Royal Societyof Chemistry.図5 (a)~(c)白金ナノ粒子を真空,酸素100 Pa,酸素0.5 Pa中の順にETEM観察.(d),(e)白金ナノ粒子を真空,酸素0.5 Pa中の順にETEM観察(.(a)(- c)A Pt nanoparticle was observed in vacuum, 100 Pa O2,and 0.5 Pa O2(. d)(, e)A Pt nanoparticle was observedin vacuum and 0.5 Pa O2.)観察時の電子線の電流密度は4 A/cm2.図6 酸素を排気することによる白金ナノ粒子の還元.(Reduction of Pt nanoparticles by evacuating of O2.)(a)真空中,(b)酸素100 Pa 中,(c)酸素排気後の真空中の白金ナノ粒子.観察時の電子線の電流密度は4 A/cm2.