ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

340 日本結晶学会誌 第57 巻 第6 号(2015)吉田秀人3.2 白金ナノ粒子表面酸化物の還元過程のETEM観察酸素中で形成した表面白金酸化物が,COガスの導入により還元する過程をETEMで原子分解能観察した(図3).図1,2と同様に,酸素中では白金ナノ粒子の表面は酸化している(図3a).ETEM内の酸素分圧を100 Paに保持した状態で,COの分圧を徐々に上げた.COの分圧が2 × 10-3 Pa程度までは,表面白金酸化物に変化は見られない(図3b).COの分圧が3 × 10-3 Pa 以上になると,図3cの破線で囲んだナノ粒子のコーナー部から表面白金酸化物が還元し始めた.さらにCO分圧を徐々に上げると,P(t 200)面上の白金酸化物が還元され(図3c,d), 続いてPt(111) 面上の白金酸化物が還元された(図3e).最終的に,COの分圧約4 × 10-3 Pa で表面白金酸化物は完全に還元された(図3f).表面白金酸化物の還元はP{t 111}面上よりもP{t 200}面上で優先的に進行した.一方,図1から,白金ナノ粒子の酸化はP{t 200}面上よりもP{t 111}面上で優先的に進行することがわかる.以上のことから,白金酸化物はP{t 111}面上においてP{t 200}面上よりも安定に存在すると言える.酸素の分圧よりも4 ~ 5桁も低いCO分圧で表面白金酸化物は完全に還元されたことになる.白金に対して,COの還元作用が酸素の酸化作用より圧倒的に強いと考えられる.還元後の白金ナノ粒子表面にはCOが優先的に吸着しており,酸素が解離吸着するサイトが不足しているためにCO酸化反応に対する活性は低い状態になっていると考えられる.COが白金ナノ粒子表面に多数吸着することで,CO分子間の反発力を緩和するために表面が荒れて{110}や{311}といった高指数面が現れ,丸みを帯びた形状に見える(図3f).7)3.3 電子線が白金ナノ粒子の酸化・還元過程に及ぼす影響図1 で,白金ナノ粒子が室温・酸素中で酸化する過程を示したが,白金ナノ粒子が室温で酸素に曝されただけで酸化するとは考えにくい.ETEM観察時における電子線照射の影響を調べる必要がある.そこで,次のような実験を行った.まず,真空中で白金ナノ粒子を観察し,表面が酸化していないことを確認した( 図4a).次に,試料に電子線を照射しない状態でETEM内の酸素圧力を100 Pa にし,3時間放置した.その後,低電流密度(0.1 A/cm2)の電子線を用いて,酸素中の白金ナノ粒子を観察した(図4b).酸素中で3 時間放置している間に,白金ナノ粒子の方位が厳密な[011]方位からずれてしまうが,低電流密度とはいえ可能な限り電子線の照射量を抑えるために,白金ナノ粒子の方位あわせを再度行うということはしなかった.そのため,真空中の像(図4a)と比べると酸素中の像(図4b)は白金原子の並びが明瞭には見えていない.また,低電流密度(0.1 A/cm2)の電子線でS/Nの良いTEM像を取得するためにCCDへの露光時間を長くしたため,露光時間中の試料ドリフトの影響もあり,像質は低下している.しかしながら,白金ナノ粒子の表面に,図1 で示したような広い原子コラム間隔は現れていないことは確認できる.すなわち表面に白金図2 (a)酸素100 Pa中のPtナノ粒子のETEM像,(b)(a)のx印位置から取得したEELSスペクトル.((a)An ETEM image of a Pt nanoparticle in O2 of100 Pa(, b)An EELS spectrum that was measured fromthe point indicated in(a).)EELSスペクトルからは酸素ガスの寄与は差し引いている.Reproduced fromRef. 14 with permission from The Royal Society ofChemistry.図3 CO導入による白金ナノ粒子表面の白金酸化物の還元過程のETEM観察.(ETEM observation of thereduction process of surface Pt oxides.)各ETEM像の右下にCOと酸素の分圧を示す.観察時の電流密度は4 A/cm2.Reproduced from Ref. 14 with permission fromThe Royal Society of Chemistry.