ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号(2015) 339白金ナノ粒子の酸化還元過程の収差補正環境制御型透過電子顕微鏡法による研究ションパラメーターは,加速電圧300 kV,球面収差係数1 μm,色収差係数1.4 mm,デフォーカス量-16 nmである.3.結果と考察3.1 白金ナノ粒子の酸化過程のETEM 観察酸化セリウムに担持された白金ナノ粒子を室温・酸素中でETEM観察(電流密度4 A/cm2)していると,白金ナノ粒子の表面が酸化した(図1).酸素をETEM内に導入する前は,ナノ粒子の最表層まで白金である(図1a).最表層の原子コラム間隔は0.24 nmであり,P{t 111}面の原子コラム間隔と一致する.次に,ETEM内部に酸素を導入し,酸素圧力を徐々に上げていった.酸素圧力が0.65 Pa 程度においては,ナノ粒子の最表層の原子コラム間隔は0.24 nm のままであり白金である(図1b).酸素圧力が0.8 Pa を超えると,白金の最表層の一部の構造が変化した(図1c).(111)面の原子コラム間隔が0.27 nm に広がっている.この新しく形成した原子コラム間隔の広い表面構造は酸素圧力0.8~1.0 Pa では不安定であり,元の白金表面構造に戻った(図1d).酸素圧力が1.3 Pa を超えると,白金表面全体が構造変化した(図1e).酸素圧力1.3 Pa 以上において,この新たに形成した表面構造は安定である.さらに酸素圧力を上げると,構造変化が徐々に白金ナノ粒子内部に進行した(図1f).酸素圧力1.64 Pa時の白金ナノ粒子( 図1f)の(200)面上に形成した構造の拡大像を図1gに示す.図1h はα-PtO2(hexagonal,a= 0.3113,c= 0.4342 nm)を[001]方向から観察した場合のTEMシミュレーション像であり,黒丸が白金原子コラムに対応する.図1g の観察像と図1hのシミュレーション像とは白金原子コラムの並びと間隔がよく一致する.観察像において白金原子コラム由来の黒いコントラストが,シミュレーション像のものと比べて水平方向に若干伸びているが,これは観察方向が[001]方向から数度傾いていたとすると説明できる.ちなみに,図1iはα-PtO2 を[001]方向から観察した場合のモデル図である.酸素原子は軽元素のために,観察像とシミュレーション像には酸素原子位置にコントラストは得られていない.以上のことから,白金ナノ粒子表面にα-PtO2が形成したと言える.次に,酸素中で{111}面上に形成した,0.27 ~ 0.28 nmの原子コラム間隔をもつ表面構造について考える.0.27 ~ 0.28 nmの原子コラム間隔は白金では説明できない.[100]方位から見たα-PtO2 の(001)面,[111]方位から見たβ-PtO2 の(110)面,[100]方位から見たPtOの(010)面,[110]方位から見たPtOの(110)面上の原子コラム間隔で説明可能である.(200)面上に形成した構造(図1g)とは異なり構造決定はできないが,0.27 ~ 0.28 nmの原子コラム間隔をもつ表面構造は何らかの白金酸化物であると考えてよいと思われる.図2aは酸素100 Pa中でETEM観察した白金ナノ粒子であり,図1fと同様に表面全体が構造変化しており,0.27 ~ 0.28 nmの原子コラム間隔をもつ表面構造が現れている.図2aの白金ナノ粒子表面付近から取得したEELSスペクトル(図2b)には酸素のK吸収端(532 eV付近)が見られる.このことから,表面構造が変化した白金ナノ粒子は酸素を含んでいると言える.一方,CeのM吸収端(883,901 eV付近)はEELSスペクトルに見られない.セリウム酸化物やPt-Ce-O混合物は形成していないと言える.以上,ETEM像の構造解析とEELSによる化学分析から,室温・酸素中におけるETEM観察中に白金表面が酸化したと結論付けられた.図1 (a)~(f) 白金ナノ粒子の酸化過程のETEM観察.(g)(f)中の破線枠部分の拡大像.(h)TEMシミュレーション像,(i)TEM像シミュレーションに用いたα-PtO2構造のモデル.((a)(- f)ETEMobservation of the oxidation process of a Ptnanoparticle in O2.(g)A magnified image of therectangular region in(f).(h)A simulated image ofan α-PtO2 surface, based on the model shown in(i).)各ETEM像の右下に酸素圧力を示す.観察時の電流密度は4 A/cm2.Reproduced from Ref. 14 withpermission from The Royal Society of Chemistry.