ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

334 日本結晶学会誌 第57 巻 第6 号(2015)北郷 悠清1 L当たり換算で数mgのタンパク質サンプルを取得できた.培養はローラーボトルで連続的に行い,得られた培養上清からNi-NTA精製,TEVプロテアーゼによるタグの切断,Endo Hf (New England Bio)による修飾糖鎖のトリミング,MonoQ(GE Healthcare)による陰イオン交換精製を経て約10.0 mg/mLまで濃縮し,結晶化サンプルとした.陰イオン交換精製後のサンプルを用いてゲルろ過クロマトグラフィーのテストを行ったが,純粋な単分散ピークが得られたため,精製にとっては特に必要がないと判断し,結晶化サンプルではゲルろ過クロマトグラフィーを行っていない.3.2 sorLA Vps10pドメイン単体の結晶構造解析調製したタンパク質サンプルを使ってMosquitoで結晶化スクリーニングを行った結果,一条件のみで初期結晶が得られ,そこから結晶化条件の最適化を行った結果,0.1 M sodium acetate pH 4.5,1.2 M sodium dihydrogenphosphateという条件において,良好な回折を示す結晶が得られた.実は初期結晶が得られた当初は,精製時にEndo Hfによる修飾糖鎖のトリミングを行っておらず,糖鎖が付いたままで結晶化を行っていたが,その場合は6.0 A分解能程度の回折を示さなかったのに対して,糖鎖のトリミングを行ったサンプルでは,約2.4 A という良好な回折を示した.10)この結晶から得られた回折データに対して,同じVps10pファミリーに属するhuman sortilinのVps10pドメインの結晶構造(PDBID:3F6K)をサーチモデルとした分子置換によって初期位相を決定したところ,得られた電子密度はおそらくサーチモデル由来と考えられるエラーが多く,解釈が難しいものであったが,マニュアル作業による困難なモデルの構築の結果,全体の分子モデルを得ることに成功した.得られた構造は,βシート10枚で構成されるβプロペラーと,それに続くジスルフィド結合に富んだ10CCaおよび10CCbドメインであった(図3a).この全体構造はhuman sortilinと同等であったが,プロペラー内部のループの一部,および10CCbドメインの配向が大きく異なっていた.特に,sortilinではneurotensinが結合している6番目のβシート内縁部は,sorLA Vps10pドメインでは別の位置からのループ部分が伸びた構造をとって占有していた.5カ所存在するN型糖鎖修飾部位のうち,3カ所でGlcNACのモデルを構築可能な電子密度が存在し,特にそのうちの1 カ所,Asn158では,比較的近傍に結晶学的対称分子が存在していたことから糖鎖のトリミングを行わない状態ではその分子との干渉が予想され,トリミングによる分解能の向上を裏付ける結果であった.3.3 sorLA Vps10pドメイン-プロペプチド複合体の構造解析リガンドフリーの構造解析と並行してリガンドペプチドとの複合体構造解析にもトライしていたが,最終的に結合に必要な中央付近の6残基を含む15残基のペプチド(pro14-28:L14PQDRGFLVVQGDPR28)との共結晶化により,0.1 M MES-NaOH pH 6.0,2.3 M NaClという条件で得られた結晶から3.3 A 分解能のデータセットを得た.この結晶は空間群P212121で非対称単位中に2分子の複合体を含んでおり,先に構造が得られていたリガンドフリー構造のβ プロペラードメインをサーチモデルとした分子置換による構造決定の結果,βプロペラー内部にリガンドペプチドと思われる電子密度は確認できたが,86 番目のグルタミンよりN末端側はディスオーダーしており,さらにそのN末端同士が接近していた.そこで,構造をとっていない領域を削ったコンストラクトで安定発現株を再度樹立し,タンパク質の精製・結晶化を行った結果,0.1 M sodiu cacodylate pH 6.5,1.3 M sodiumacetateという条件で,空間群I41で非対称単位中に1 分子が存在する結晶を得ることに成功した.これらプロペプチド複合体の結晶はなぜか非常に再現性が悪く,析出するまでに3 カ月以上を要したため,クライオプロテクタントの選別など,測定条件を詰めて最高分解能を上げるのに苦労したが,最終的に後者の結晶で3.15 A 分解能のデータ取得に成功した.これは,sorLA Vps10p ドメインは中性条件でのみリガンド結合能をもつが,その中性条件でリガンドが結合していない状態ではドメイン全体に揺らぎがあって結晶化しにくいのではないかと考えられる.得られたデータに対してリガンドフリー体のβ プロペラー部のモデルを使った分子置換により初期位相を計算し,そこから残りのモデルを構築し,精密化を行った.これら2 つの回折データから計算した電子密度は,数値上の分解能では0.15 A しか変わらないが,おそらく非対称単位中の分子数の違いから,後者のもののほうが,リガンドペプチドのアミノ酸を同定できるほどクオリティが高かった.明らかになった結晶構造をリガンドフリーの構造モデルと比較すると,ディスオーダーしていたプロペラー上下のループがオーダーしており,さらにプロペラー内部のL1,L2と呼称する2 カ所のループ部が大きく構造変化していた.βプロペラー下流の2 ドメインはともにその位置が動いていたが,10CCaがβ プロペラーとの境界を支点として11°程度動いていたのに対して,それにつながる10CCbは非常に大きく移動していた(図3b).問題のリガンドペプチドの認識機構であるが,pro14-28はβプロペラー中心のトンネル内壁,1番目のβシートの内縁部に沿って存在しており,隣接するβ ストランドとの主鎖同士が平行β シートを構成している位置関係になっていたため,βシート拡張によって認識されていると判断した(図4a).さらに周辺環境を観察すると,結合に認識していると判断したペプチド中央部分の背面にあたるタンパク質表面は多少疎水性に偏った構成になって