ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号(2015) 333巨大受容体sorLAのVps10ドメインによるアミロイドペプチド認識の分子機構Polarization:FPアッセイ)によって詳細に調べた.2.1 AP アッセイによるsorLA Vps10pドメインのペプチド認識特性APアッセイとは,リガンドペプチドをAlkaline Phosphatase(AP)との融合タンパク質として発現させ,目的タンパク質と相互作用したリガンドペプチドを,APの酵素反応を使って高感度に検出するというアッセイ系である.8)今回の筆者らの実験ではsorLA Vps10p ドメインを,発現させた培養上清からアフィニティタグでプルダウンし,そこにリガンドペプチド融合APを発現させた培養上清を加えてウォッシュした後にAPの酵素活性を測定することで,さまざまなリガンドペプチドに対するsorLAVps10pドメインの結合活性を調べた.その結果,sorLAVps10pドメインは,ネガティブコントロールである別タンパク質のプロペプチドや,結合が報告されていたHeadActivator,neurotensinにはほぼ活性を示さず,自身のプロペプチドおよび筆者らが結合することを発見したAβペプチドに対しては結合を示した(図2a).このとき,プロペプチドについて短く切り詰めた配列,およびアラニンへの一残基変異を導入した配列を使って網羅的なAPアッセイを使った実験から,プロペプチドについては中央付近の6 残基が,結合に関与していることを示唆する結果を得た.Aβ ペプチドについて,同じ系での実験を行うと,約40 残基のAβ ペプチド中のN末端側22 残基が結合に必要であったが,Aβ ペプチド中には明確な1 カ所の結合配列が存在するわけではないことが示唆された.このAβペプチドとsorLA Vps10pドメインの相互作用を,15N標識したAβ ペプチドを使ったNMRによって調べたところ,Aβ ペプチド上で結合にかかわる配列が3 カ所に散在し(図2b),かつそれぞれの結合は一過性のものであることが示唆された.2.2 FP アッセイを使ったsorLA Vps10pドメインによるリガンド認識の評価次に筆者らはFPアッセイによってこのリガンド認識を詳細に調べた.FPアッセイとは,蛍光物質で標識したペプチドリガンド( 末端にCys残基を導入し,AlexaFluor488 を付加)と精製したsorLA Vps10p ドメインを混合し,一定時間における蛍光物質の偏光性を測定することで,定常状態における両者の結合を評価する方法である.その結果,sorLA Vps10pドメインとAβペプチドの間の親和性は,KD値で約200 nMであり,自身のプロペプチドに対する親和性,440 nMより高い値であった.また,APアッセイではその結合が検出できなかった既報のリガンドであるneurotensinについても,弱い結合が検出された.そして,この系のpHを変えることで,この結合のpH依存性を調べると,sorLA Vps10pドメインは,pH5.0付近を境界として,中性側の広い範囲でリガンドペプチドと結合を示したが,それよりも酸性側では,結合活性を完全に失うという興味深い性質が明らかとなった(図2c).以上の実験結果から推測できるのは,sorLA Vsp10p ドメインはリガンドとなるペプチドに対して,その相互作用を定義するはずのアミノ酸配列をあまり厳密に認識しておらず,かといってどのアミノ酸配列でもよいわけではないという,これまでのタンパク質のリガンド認識とは異なる性質をもっているということである.このようなリガンド認識がどのような機構で実装されているのかを確認するためには,X線結晶構造解析による原子レベルの立体構造解析が必要であった.3.sorLA Vps10pドメインの結晶構造解析3.1 結晶化サンプルの調製sorLA のVps10p ドメインは,sorLA 細胞外領域のcDNAより分泌発現のためのシグナルペプチドを含んだ1-753番目をPCRで増幅し,TEVプロテアーゼ認識サイトを挟んでHis タグおよびMycタグをタンデムにC末端に付加するというモディファイを加えたpEF-BOS9)発現ベクターに組み込んだ.このベクターをCHO lec 3.2.8.1細胞にトランスフェクションし,そこからsorLA Vps10pドメインの安定発現株を樹立した.この安定発現株は,接着系の動物細胞としては発現が良く,発現させた培養上清からNi-NTAによる一段階精製を行った時点で,上図2 (a)APアッセイによるsorLA Vps10p ドメインのリガンド結合のペプチド配列依存性,(b)APアッセイおよびNMRによって同定したsorLA Vps10p ドメインの結合箇所,(c)FPアッセイによるsorLAVps10pドメインのリガンド結合pH依存性.(a.AP binding assay against various peptides showingthe sequence dependency of ligand recognition bysorLA Vps10p domain. b. Recognition domains onpropeptide and Aβ peptide indicated by AP assayand NMR measurement. c. FP binding assay showedthe pH dependency of ligand recognition by sorLAVps10p domain.)