ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

332 日本結晶学会誌 第57 巻 第6 号(2015)北郷 悠をセクレターゼによる切断を受けるエンドソームから除去することでAβ の産生を抑制するという説が提唱された.4)さらに家族性アルツハイマー病の一部では,sorLA上の変異が有意に見られることが複数報告され,これらもsorLAが遺伝子学的にアルツハイマー病と相関していることを強く示唆しているが,その作用機序は不明であった.1.2 sorLA はVps10pドメインを使って新生A βペプチドを分解系へとリクルートするこのような背景において,筆者らはsorLAの中でもリガンド結合に中心的な役割を果たすと予想されるVps10pドメインについて構造学的研究に長年取り組んできた.予備的な研究から筆者らはsorLAがVps10pドメインを使ってAβペプチドと直接相互作用するという,これまでとはまったく異なる仮説を立て,それを生化学実験により実証した.この際にsorLAは,中性条件ではリガンドと結合するが,pH 5.0 付近を境界としてそれより酸性の条件になると,リガンドと結合しなくなることも新たに見出した.これら発見から,生体内においてsorLAがAβ ペプチドの動態とどのようにかかわっているのかを調べるために,LDLR研究でMax Delbruck分子医学研究所(独)T. Willnow 博士と共同研究を開始し,マウスおよび培養細胞を使った実験を行った.その結果,①human sorLAを強制発現させ,大脳皮質および海馬においてsorLAの発現量を上昇させたトランスジェニックマウスでは,脳内のAβペプチド量が顕著に減少していたが,そのときのAPP切断量には変化がなかった.②同様にhuman APPを過剰発現させたアルツハイマー病モデルマウスでsorLAを強制発現させると,①のAβ ペプチド量の減少はいっそう顕著になった.ここから,sorLAが何らかの形で,脳内Aβペプチドの分解を促進しているのではないかと推察される.ただし,③これらのモデルマウスでAβ ペプチド異化経路と報告されているneprilysin,インスリン分解酵素(IDE)といった分解酵素,およびApoE,sortilin,LRP1といったレセプター類のレベルに変化は見られなかったため,sorLAの過剰発現によるAβペプチドの分解促進は,既知の経路とは別のメカニズムによると示唆された.このとき,脳間質液中のAβペプチド量には差が見られなかったため,sorLAが何らかの形で作用できるのは,細胞内に存在しているAβペプチドに限定されると考えられた.さらに④sorLAを過剰発現させたヒト培養細胞(SH-SY5Y)でDAPTによるγ- セクレターゼ阻害をかけ,Aβペプチド産生を止めた直後では,残存Aβペプチド量の減衰が著しく,その細胞破砕液のリソソーム画分ではAβペプチド量が通常の2 倍程度に増加していた.以上の実験結果に基づいて筆者らは,sorLAがAPPの切断によって新たに産生されてきたAβペプチドを,中性のエンドソーム内でただちに補足し,そのまま酸性条件であるリソソームまでリクルートした後に,リソソーム内で放出することで,Aβペプチドを分解へと導いているというメカニズムを提唱した5()図1b).これはすなわち,sorLAが細胞内のAβペプチド量を恒常的に低いレベルに抑える働きをもっているというまったく新しい機構を示している.本稿では,この報告に続いて筆者らが発表したsorLAVps10pがAβ ペプチドに限らないβ 凝集を起こす性質のあるペプチドを,モノマー状態で特異的に認識するという新しい分子メカニズムについて解説する.6)2.sorLA Vps10pドメインのリガンド結合能1.2に示した,筆者らの提唱したsorLA機能においては,sorLA Vps10p ドメインのリガンドペプチドに対する結合能が大きな意味をもつ.われわれは,sorLA Vps10pドメインをCHO lec 3.2.8.1細胞7)を用いて組み換え発現させ,そこから調製した精製タンパク質を使って,①sorLA Vps10p ドメインはどのようなペプチドを認識するのか,②sorLA Vps10p のペプチド認識の親和性はどれくらいなのか,の2 点についてそれぞれAlkaline Phosphataseアッセイ(APアッセイ)および蛍光偏光法(Fluorescent図1 (a)LDLRファミリー分子のドメイン構造を示した模式図.本稿で紹介するsorLAは,LDLRファミリーの特徴に加えて,N末端にVps10pドメインを有する.(b)sorLAの細胞内での役割を示した模式図.(a. Schmaticfigure showing the domain constructions of LDLR family members. b. Schmatic illustration showing the suggested roleof sorLA in cell.)