ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号(2015) 331日本結晶学会誌 57,331-337(2015)最近の研究から1.背 景sorLAは,鳥類以上に高く保存されている全長2,214残基の巨大な一回膜貫通タンパク質である.そのうちの実に2,118残基が細胞外領域にアサインされており,細胞内領域は数十残基しか存在しない.このタンパク質が,生理的にどのような機能をもっているのかははっきりしていないが,アミノ酸配列の相同性から定義される構造的特徴により,低密度リポタンパク質受容体(LowDensity Lipoprotein Receptor:LDLR)ファミリーおよびVps10p(Vacuolar Protein Sorting 10 protein)ファミリーの両方に分類される.前者,LDLRファミリー分子は,LAモジュール,YWTDモジュール,EGFモジュールという3 種の構造から構成される大きな細胞外領域をもつ一回膜貫通タンパク質である(図1a).その中でも,ファミリー名の由来になっているLDLRについては,アポリポタンパク質と相互作用し,リポタンパク質,つまりはコレステロールをエンドサイトーシスによって細胞内に取り込む受容体であると認識されている.その他の分子についても,さまざまな物質の取り込みに関与するという報告がある一方で,Wntシグナル回路におけるLRP5/6のように,シグナル伝達の中枢で何らかの働きをしていると考えられる報告も多く,実は生命活動の根源に本質的にかかわっていることが示唆されている.一方で,Vps10pファミリーは,700残基に及ぶ酵母由来のVps10pドメインを含む一回膜貫通タンパク質のファミリーであるが,その生理機能については知見が乏しい.酵母由来Vps10pからの類推で,ゴルジ体と後期エンドソームもしくはリソソームとの間を行き来してタンパク質ソーティングに関与していると考えられているが,具体的なリガンドとそれを受容した後の動態については決定的な報告がない.その中で,さまざまな生理活性を誘起するneurotensin との結合が報告されているヒト由来のsortilin について,neurotensin との複合体構造が報告され,1)Vps10pドメインが10枚のβシートで構成されたβ プロペラーと,それに続くジスルフィド結合に富んだ10CCa,10CCbという2 つの小さいドメインで構成されていることが明らかとなった.1.1 sorLA とアルツハイマー病こういったタンパク質の分類上の特徴とまったく関係なく,sorLA分子ではアルツハイマー病発症との相関が報告されてきた.特にアルツハイマー病患者の脳内では,sorLAの発現量が減少していたこと,2)そしてsorLAのノックアウトマウスの脳内では,アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβ(Aβ)ペプチドレベルが上昇し,かつアルツハイマー病様症状が悪化した3),4)という報告から,sorLAがアルツハイマー病に対して保護的に働いているとして注目された.その作用機構については,sorLAがAβペプチド前駆体タンパク質APPと直接相互作用するという生化学的な実験データから,APP巨大受容体sorLAのVps10ドメインによるアミロイドペプチド認識の分子機構大阪大学蛋白質研究所 北郷 悠Yu KITAGO: Molecular Mechanism for Amyloidgenic Peptide Recognition by Vps10pDomain of Giant Receptor sorLAA giant single-pass trans-membrane receptor, sorLA constructed by over 2,000 amino acidresidues has been recognized as a major risk factor for Alzheimer’s disease (AD) based on reportsthat its level was reduced in the brains of patients with sporadic AD, and that the increased levelof amyloid-β(Aβ), the most major AD causative substance, was observed in the sorLA knockoutmice. SorLA can be classified in the low-density lipoprotein receptor(LDLR)family by its domaincomposition, meanwhile sorLA has a unique Vps10p domain on its N-terminus unlike other LDLRfamily members. Last year, we discovered that sorLA Vps10p domain specifically recognizes Aβpeptide in our sorLA structural study project, and suggested that sorLA has the function to captures thenewly produced Aβ peptide at endosome and dump it to lysosome using its Vps10p domain. Followingthe discovery, we successfully revealed the crystal structure of sorLA Vps1-p domain for its ligandfree form and complexed forms with two kinds of ligand peptides, its own propetide and Aβ peptidefragments. Based on these results combined with biological experiments, we suggested that sorLAVps10p domain can ‘specifically’ recognize β-aggregation tendency.