ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号(2015) 329高等生物のオートファジー始動に必須な因子Atg101 の構造と機能いくつかの下流因子の挙動を観察してみたところ,野生型Atg101発現細胞では下流因子の集積がドット状に観察できるのに対して,WFフィンガー変異Atg101発現細胞ではドットが形成されなかった.すなわち,WFフィンガーの変異により下流因子の集積に支障をきたすためにオートファジー活性が低下することが明らかとなった.5.ヒト由来Atg101-Atg13HORMAの結晶構造筆者らの報告ののち,Qiらにより,ヒト由来Atg101-Atg13HORMA複合体の結晶構造が1.63 Aという高分解能で決定された.13)ヒト由来のAtg13HORMA は単独では発現させることができず,著者らは昆虫細胞を用いてAtg101と共発現させることで安定な複合体試料を得て,結晶化に成功している.ヒトAtg101は,αA?β2 間およびαC?β6間のループが分裂酵母に比べて長く,この領域がAtg13結合面に含まれるため,Atg13との相互作用面積は1523 A2と広い.また,Atg101のαA?β2ループにあるAsp54がAtg13のArg133と塩橋を形成していた.これらのアミノ酸残基はヒトだけではなく,マウスやショウジョウバエにも保存されており,より高等な動物におけるAtg101によるAtg13の安定化において重要な相互作用であることが示唆される.WFフィンガー領域は,筆者らの分裂酵母由来Atg101およびヒト由来Atg101単独の構造では,分子の外側を向いて存在していた.ヒト由来Atg101単独の構造では,この領域の温度因子がおよそ170 A2であり,生体内ではかなり揺らいでいることが予想された.一方,ヒト由来の複合体構造では,Trp110 とPhe112 がIle117およびGln104,Lys107,Arg109のアルキル鎖部分と相互作用する,つまり分子の内側を向いていることが明らかとなった.上述のように,WFフィンガーはオートファゴソーム形成部位への下流因子の集積に関与するが,分子の外側向き(on)と内側向き(off)の構造をとることで,現時点では未知の相互作用分子との結合を調節していることが示唆された.また,結晶化の際には,0.5 Mのベンザミジンが添加剤として加えられており,5 分子がAtg101-Atg13HORMA 複合体表面の疎水性ポケットに結合していた.このポケットを形成するアミノ酸残基は分裂酵母由来タンパク質には保存されておらず,ヒト由来のタンパク質を用いることで明らかとなった.このような疎水性ポケットの存在は低分子化合物による創薬の可能性を想起させる.うち1分子がWFフィンガーに結合しており,結晶化を促進した可能性が考えられる.また,残り4 分子のうち2 分子はAtg101とAtg13HORMAの相互作用界面に存在した.Atg101とAtg13HORMAの相互作用を制御すること,あるいはAtg101のWFフィンガーのon/off を制御することでオートファジーの始動をコントロールできる薬剤の設計および評価が可能になると考えられる.6.おわりにはじめにも述べたように,高等な生物には出芽酵母におけるAtg29とAtg31が存在せず,かわりにAtg101が存在している.出芽酵母においては,Atg29とAtg31が下流因子の集積に関与することが報告されている.14)また,Atg13はHORMAドメインを介して単独で下流因子の1 つであるAtg9と相互作用することが明らかとなっている.15)現時点での解釈として,高等生物では進化の過程でなぜか不安定となってしまったAtg13を安定化するためにAtg101が必須となり,併せてAtg101がAtg29 と図6 ULK複合体の全体モデル.(Schematic model of the ULK complex.)