ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

328 日本結晶学会誌 第57 巻 第6 号(2015)鈴木浩典,野田展生Phe が保存されていたこともあり,WFフィンガーと命名した.複合体の結晶化が成功した1 つの要因として,WFフィンガーが隣接するAtg13HORMAによって安定化されていたことが挙げられる(図5).疎水性のアミノ酸残基がAtg13HORMAのポケットにはまり込むように存在していたため,この相互作用が真の結合である可能性も考えられた.そこでWFフィンガーをAlaに置換した変異体を作製し,in vitroでプルダウン実験を行ったが,変異Atg101も野生型と同様にAtg13と結合可能であり,結晶中でのパッキング相互作用によるものであると結論付けた.しかしながら,その相互作用の様子や高い配列保存性から,Atg101の機能において重要な領域ではないかと予想された.4.高等生物のオートファジーにおけるAtg101の役割4.1 Atg101 はAtg13との結合を介してULK 複合体に組み込まれるAtg101のオートファジーにおける役割を明らかにするため,マウスのAtg101欠損細胞を用いて機能解析を行った.細胞抽出液をゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ,ヒト野生型Atg101を発現させたAtg101欠損細胞においてULK複合体は安定な4者複合体を形成した.一方,Atg13結合面に変異を導入したAtg101を発現させた場合,変異Atg101は単独で存在しており,それ以外の3者は複合体を形成した.顕微鏡下での観察でも,変異Atg101はFIP200とは共局在しなかった(Atg13のC末端側天然変性領域にFIP200結合部位が存在する11)).また,野生型Atg101を発現させた場合と比べると,変異Atg101発現細胞ではAtg13,ULK1の安定性が低下していた.さらに,哺乳類のオートファジーにおける選択的基質であるp62が蓄積するなど,オートファジー活性が顕著に低下していた.つまり,Atg101のAtg13結合面はAtg101自身がAtg13を介してULK複合体に組み込まれ,オートファジーに必須の因子として機能するために必要であることが明らかとなった.4.2 Atg101はWFフィンガーを介して下流Atgタンパク質の集積に関与するWFフィンガーをAlaに置換した変異体を作製し,哺乳類細胞を用いて免疫沈降実験を行ったところ,in vitroでのプルダウン実験と同様に,変異Atg101も野生型と同様にAtg13と結合した.顕微鏡観察でも,変異Atg101がAtg13を介してFIP200と共局在した.つまりWFフィンガー変異体はULK複合体を形成することは可能である.しかしながら,オートファジー活性がAtg101欠損やAtg13結合面の変異体と同様に顕著に低下していた.Atg101を含むULK複合体はオートファゴソーム形成部位への下流Atgタンパク質の集積に関与することから,図5 結晶中でのAtg101 とAtg13HORMA の相互作用.(Interactions between Atg101 and Atg13HORMA observed in the crystal.)A:生物種間のAtg101の一次構造比較.分裂酵母(Sp),ショウジョウバエ(Dm),マウス(Mm),ヒト(Hs).B:結晶中での相互作用.隣接したAtg13HORMA を静電ポテンシャル図で示した.C:Bの拡大図.