ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号(2015) 327高等生物のオートファジー始動に必須な因子Atg101 の構造と機能open 型の存在が実験データとして報告されておらず,(さらなる検証が必要ではあるが)帽子領域の構造的特徴を見る限り,close 型に固定されているのではないかと考えられる.分裂酵母由来Atg13HORMAもこれと類似のC-Mad2様の構造をとるが,帽子構造を欠いている.配列上は帽子に相当するアミノ酸残基を有するものの,その電子密度は不明瞭であり,フレキシブルな領域であると考えられる.また,帽子相当の領域はヒトなどその他の生物のAtg13にはそもそも存在していない.このことから,分裂酵母やヒトなどのAtg13HORMAは出芽酵母由来のものと比べて安全ベルト,そして分子全体がより不安定な状態で存在すると考えられる.そのようなこともあり,分裂酵母やヒト由来のAtg13HORMA単独での試料調製に,筆者らも含め各グループが難航したものと思われる.つまり,Atg13HORMA はどういうわけか,構造的に不安定となる方向へと進化してしまったと推察される.そして,これを安定化するための因子としてAtg101が存在するようになったと考えられる.3.4 複合体の構造と相互作用前述したように,Atg101 とAtg13HORMAは溶液中で1:1 の複合体を形成している(図4).この複合体1 つが結晶中の非対称単位に存在している.Atg101 のAtg13結合面は,αA,αC,β3 とαA-β2ループで構成され,Atg13HORMA のαCとβ8’-β8” ヘアピン,αA-αBループと相互作用する.Atg13結合面の面積は1150 A2 あり,複合体は一度形成させると解離させることができないほど強く結合している.C-Mad2様の構造であるAtg13HORMA のβ8’-β8” ヘアピンがO-Mad2様の構造であるAtg101 により安定化されており,その様子はまさにMad2非対称ホモダイマーで見られたO-Mad2によるC-Mad2の安定化と類似していた.得られた分裂酵母由来Atg101-Atg13HORMA 複合体の結晶構造をもとに変異体の解析を行った.In vitroプルダウン実験や免疫沈降実験の結果,Atg101のAtg13結合面にあって,相互作用の中央にあるαAへリックス上のPhe29,His30(ヒトAtg101ではLeu30,His31)をArgに置換した変異体で顕著に相互作用が阻害された(相互作用面が広く,Alaへの変異では相互作用は保持されたままであった).Mad2と異なる点として,Atg101はβ4 とβ5の間に長いループ領域をもつ.この領域は筆者らが単独での結晶化に難航した理由と考えているフレキシブルなループ領域である.この領域はAtg101のAtg13結合面とは反対側に位置しており,分子の外側に向かって突き出ていた.またこのループ領域にはすべての生物種においてTrp,図4 A:分裂酵母由来Atg101-Atg13HORMA複合体の結晶構造.(Crystal structure of Atg101-Atg13HORMA complex fromfission yeast.)(PDB ID:4YK8).B:Aのトポロジー図.C:Mad2非対称ホモ二量体の結晶構造.(Crystal structureof Mad2 asymmetric homodimer.)(PDB ID:2V64).D:Cのトポロジー図.