ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

326 日本結晶学会誌 第57 巻 第6 号(2015)鈴木浩典,野田展生β5-αCループは13残基からなり構造変化が可能であるが,7残基に短鎖化した変異体では,β1 がβ5-αCループをくぐり抜けることができず構造変化は起きないため,open 型に固定される.O-Mad2のαCがC-Mad2のαCと構造変化によって生じたβ8’-β8”ヘアピンに結合することで,O-Mad2とC-Mad2が非対称な二量体を形成する.O-Mad2のほうが熱力学的に安定であるため,O-Mad2によってC-Mad2が安定化されていると考えることができる.3.2 Atg101 の構造Atg101は構造予測のとおり,HORMAドメイン様の構造をとるが,特にO-Mad2と類似の構造をとることが明らかとなった(図2).すなわち,N末端領域がβ5 に隣接してβ1 を形成する.ただし,C末端領域は電子密度が不明瞭であり,モデルが組めていない.分裂酵母Atg101 の場合,β1上にあるVal5,Ile7,Leu9,およびIle11側鎖が分子内部を向き,コアであるαA,αCと疎水性相互作用により強く結合していた.これらのアミノ酸配列上の特徴はヒトなどのその他の生物種のAtg101においても保存されている.さらに,Atg101のβ5-αCループはたった5残基のアミノ酸から構成される.そのため,Atg101はMad2のような構造変化を起こさず,open型に固定されていることが示唆された.筆者らの報告ののち,Michel らによりヒトAtg101単独の結晶構造が分解能1.90 Aで報告された.12)著者らは低イオン強度のスクリーニングキットを用いて初期結晶を得て,さらに等電点(pI = 5.8)近傍のpH 5.6 の条件下で結晶を最適化して高分解能データを収集している.ヒトAtg101の構造は分裂酵母Atg101とほとんど同じ構造であり,単独でもopen型のHORMAドメイン構造をとることが明らかとなった.さらに著者らは,15N標識したヒト由来Atg101を調製しNMR測定を行い,30℃,5日間のインキュベート前後でNMRスペクトルに変化がないことを示している.このことから,Atg101は実際に常にopen型の構造をとると考えられる.3.3 Atg13 の構造Jaoらによって,出芽酵母の一種である耐熱性酵母Lachancea thermotoleranse由来のAtg13HORMA 単独での結晶構造が報告された.10)その名のとおり,HORMAドメイン様の構造をとるが,こちらはC-Mad2とよく似た構造をとる(図3).しかし,一般的なHORMAドメインに見られるα へリックスとβ ストランドで形成されるコア構造に加えて,3 本の逆平行β ストランド(β4’,β4”,β9)からなるβ シート構造を有する.この領域がHORMAドメインに覆いかぶさるように“帽子”状に配置していた.帽子領域の疎水性アミノ酸(Trp103,Val105)は安全ベルト領域にある疎水性アミノ酸(Leu212,Ile213)と相互作用している.また,帽子領域のAsp253と安全ベルトのTyr216 が水素結合を形成している.これらの相互作用により,安全ベルトは帽子領域によって安定化されていると推測される.Jao らはAtg13HORMA についてMad2のように2つのコンフォメーションをとることを予想したが,図2 Atg101の結晶構造.(Crystal structure of Atg101.)A:分裂酵母由来Atg101の結晶構造(Atg101-Atg13HORMA複合体中,PDB ID:4YK8).B:ヒト由来Atg101の結晶構造(PDB ID:4WZG).図3 Atg13HORMAの結晶構造.(Crystal structure of Atg13HORMA.)A: 分裂酵母由来Atg13HORMAの結晶構造(Atg101-Atg13HORMA 複合体中,PDB ID:4YK8).B:耐熱性酵母Lachancea thermotoleranse由来Atg13HORMA の結晶構造(PDB ID:4J2G).C:帽子領域と安全ベルト間相互作用の拡大図.