ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号(2015) 325高等生物のオートファジー始動に必須な因子Atg101 の構造と機能能類縁体とは考えにくい.また,これまでAtg29およびAtg31とAtg101の両者をもつ生物種は報告されておらず,5)その相互排他性の理由は明らかにされていない.本稿では,筆者らが行った分裂酵母由来Atg101-Atg13複合体の結晶構造解析を中心に,6) 高等生物におけるオートファジー始動機構について構造生物学的観点から紹介する.2.Atg101,Atg13HORMAの発現および結晶化Atg101は200 残基程度の球状タンパク質であり,バイオインフォマティクスによる構造予測からHORMAドメインフォールドをもったタンパク質であることが予想されていた.7)当初,ヒト由来のAtg101を用いて,サンプル調製,結晶化スクリーニングを行っていたが,良質な結晶を得ることができなかった.分子内に存在するフレキシブルなループ領域の存在が結晶化を妨げていることが考えられた.そこで,出芽酵母と比べて進化上哺乳類に近くAtg101を有する分裂酵母に由来する遺伝子を用いることにした.分裂酵母Atg101(184アミノ酸残基)はヒトAtg101(218 アミノ酸残基)に比べて配列が短く,二次構造予測からループ領域が短鎖化されていることが予想され,結晶化に適しているのではないかと考えられた.GST融合タンパク質として分裂酵母由来Atg101を発現させ,精製して結晶化スクリーニングを行った.性質は非常に良好で,まずはAtg101単独での結晶化を試みた.しかし,結晶を得るには至らなかった.のちにAtg101の機能において重要な領域であると判明するWFフィンガーがフレキシブルな領域として存在していたことが一因であると考えられる.そこで,相互作用の相手であるAtg13との複合体の調製,結晶化へと方針転換した.Atg101はAtg13のN末端にあるHORMAドメイン(Atg13HORMA)と相互作用することで,Atg13の安定化に寄与する.3)Atg13のHORMAドメイン以外の領域は天然変性領域で安定な立体構造をとらないと予測された.そのため,分裂酵母由来Atg13HORMA をAtg101と同様にGST融合タンパク質として大腸菌に発現させた.発現量は十分であるものの,GSTアフィニティーカラム精製後の試料はその90%程度が凝集しており,タグの除去ができなかった.試料調製の簡便さを求めて,タグの変更やAtg101との共発現などを検討したものの,いずれも良好な結果は得られず,GST融合タンパク質として発現させたうちの状態の良さそうな約10 %を精製することにした.得られたAtg13HORMA は単独では3 mg/mL程度までしか濃縮できないなど予想どおり性質は悪かったが,Atg101と複合体を形成させたところ性質は劇的に改善した.ゲルろ過クロマトグラフィー,X線小角散乱による解析から,Atg101およびAtg13HORMAはいずれも単独では単量体として存在しており,それらが1:1 で結合して複合体を形成していることが確認された.それぞれ単独で精製したAtg101とAtg13HORMA を混合し,ゲルろ過クロマトグラフィーにより得られた複合体画分を用いて結晶化スクリーニングを実施したところ,外見の美しい結晶が得られた.条件の最適化ののちX線を当てたところ,回折点が割れるなどの兆候があったため,additive screenなどの添加剤を用いたさらなる条件の最適化を行った.こうして得られた結晶は回折点の割れも生じず,3.0 A分解能の良好な回折能を有した.位相決定はHg acetate誘導体結晶を用いた単波長異常分散法により行い,最終的に分解能3.0 A で構造を精密化した.3.Atg101-Atg13HORMA複合体の結晶構造解析3.1 HORMA ドメインタンパク質HORMAドメインとは,Hop1,Rev7,Mad2といったタンパク質に共通のドメイン構造であり,その特徴は代表的なタンパク質であるMad2において詳細に調べられている.8)Mad2は3つのαへリックス(αA,αB,αC)と3つのβストランド(β4,β5,β6)を安定なコア構造としてもつが,N末端側の領域とC末端側の領域は複数のまったく異なる二次構造をとり,結晶構造としてはopen型(O-Mad2)とclose 型(C-Mad2)の少なくとも2 つの状態をとる.Mad2はclose型でのみCdc20と結合して紡錘体チェックポイントの活性化に働くため,C-Mad2が活性化型,O-Mad2が不活性化型と考えることができる.紡錘体チェックポイントが活性化されていない状態では大部分がO-Mad2として存在しており,open 型からclose型への変化は起こりにくく,また組み換えタンパク質としてMad2を調製した場合にも大部分はO-Mad2として存在している.つまり,熱力学的にopen 型のほうが安定であると考えることができる.Open型においては,N末端領域がβ5に隣接してβストランド(β1)を形成し,C末端領域がβシートの反対側にあるβ6と隣接してβ7,β8 を形成する.β1 ストランド上にはIle11,Leu13が分子内部を向いて存在し,コアであるαA,αCと疎水性相互作用することによってβ1 ストランドが固定されている.一方,close 型ではN末端領域β1 はβ シートからはずれ,α へリックス(αN)を単独で形成する.β1 のあった領域にはβ7,β8を含むC末端領域が反対側から移動してヘアピン型のβシートβ8’,β8”を形成する.さらにβ7,β8のあった領域にはMad2の結合相手に含まれる短いペプチド領域が結合する.その際にヘアピン型のβ シートとそれに先立つループ構造によってペプチドが“固定”される.9)そのため,このC末端領域の構造は車のシートベルトにちなんで“安全ベルト”と呼ばれている.このような構造変化を起こすとき,β1 はβ5 とαCの間のループ(β5-αCループ)をくぐり抜ける必要がある.野生型では