ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

324 日本結晶学会誌 第57 巻 第6 号(2015)日本結晶学会誌 57,324-330(2015)最近の研究から1.はじめに生物が生きるためには,細胞内において必要な成分を合成するだけでなく,不要なものまたは有害なものを分解することも重要である.細胞内における分解系は大きく2 つに分けられる.1 つはユビキチン-プロテアソーム系であり,ユビキチン標識された被分解タンパク質がプロテアソームによって分解されるシステムである.もう1つがオートファジーによる分解システムである.オートファジーが誘導されると,細胞質に隔離膜と呼ばれる膜構造体が出現し,湾曲・伸長しながら被分解物を取り囲む.被分解物は細胞質にあるタンパク質のみならず,ミトコンドリアやペルオキシソーム,小胞体,核,細胞内に進入してきた細菌など多岐にわたっている.これらを包み込んだ隔離膜の末端がつながることにより形成された二重膜構造体がオートファゴソームであり,オートファゴソームは最終的にリソソームと融合し,被分解物はリソソーム酵素により分解される.ヒトにおいてはオートファジーの異常によって神経変性疾患,感染症,代謝性疾患など重篤な疾患が引き起こされる.1)オートファゴソーム形成の分子機構を解明することを目的として,これまでモデル生物である出芽酵母およびその近縁種に由来するオートファジー関連タンパク質(Atgタンパク質)の構造機能解析が進められてきた.出芽酵母においてはオートファゴソーム形成の過程で18 種類ものAtgタンパク質が必須であり,2)その多くはヒトなどの哺乳類においても保存されている.しかしながら,高等生物に固有のAtgタンパク質も存在し,高等生物におけるオートファゴソーム形成の分子機構を理解するうえでは,それらの構造と機能を明らかにする必要がある.出芽酵母とヒトなどの高等生物とのあいだの相違点の1 つとして,オートファジー始動複合体におけるAtg29,Atg31とAtg101が挙げられる(図1).出芽酵母において飢餓などに応答してオートファゴソームが形成されるとき,Atgタンパク質の中で最上流にあるのが,Atg1,Atg13,Atg17,Atg29,Atg31の5 者からなるAtg1複合体である.一方,ヒトなどの高等生物においてはAtg1 の相同タンパク質であるULK1/2,Atg13,Atg17の機能類縁体であるFIP200,Atg101の4 者からなるULK複合体が,下流Atg因子群が集積する際の足場となってオートファゴソーム形成が進行する.出芽酵母のAtg1複合体に固有の因子であるAtg29とAtg31は,複合体の中でAtg17に直接結合するがAtg13とは結合しない.一方,高等生物のULK複合体に固有の因子であるAtg101は,FIP200とは結合せず,Atg13と相互作用してその安定化に寄与する.3),4)Atg29,Atg31とAtg101のあいだにアミノ酸配列上の相同性はなく,Atg101がAtg29およびAtg31の機高等生物のオートファジー始動に必須な因子Atg101の構造と機能(公財)微生物化学研究会 微生物化学研究所 鈴木浩典,野田展生Hironori SUZUKI and Nobuo N. NODA: Structure and Function of Atg101-Atg13HORMA Heterodimer: Insight into Mammalian Autophagy InitiationULK complex is the most upstream factor to initiate autophagy in higher eukaryotes. Atg101 isan essential component of the complex, but is absent from the functionally equivalent Atg1 complexin budding yeast. To elucidate the molecular functions of Atg101, we have determined the crystalstructure of Atg101 complexed with Atg13. The structure reveals that Atg101 is a member of theHORMA family protein and is structurally similar to Atg13. Structure-based mutational studies revealthat Atg101 has at least two critical functions in autophagy: one is to stabilize Atg13 and the other isto recruit downstream Atg factors to autophagosome formation site.図1 出芽酵母と哺乳類におけるオートファジー開始因子.(Autophagy initiation factors from budding yeastand mammals.)